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よむとす No.308 「生きる力」を支えるもの

[2023年12月1日]

ID:1081

「生きる力」を支えるもの

上郷図書館 小沢 朋弥

図書館司書として働きはじめて数年経った頃、職員会で「本を読むことのなにが良いのか」というテーマが取り上げられたことがあります。このテーマを扱ったあの朝のことは忘れたことがありません。なぜなら、ずっと図書館で働いてきたのに、そう問われて「これだ」という根拠や明確な理由がすぐには出てこなくて、ドギマギしていたから。そして自分が「本を読むことでそれを書いた人の考えや、知見を得ることができるから」と自信なく答えたことが、どこかでずっと引っかかっていたのでした。

『読む力は生きる力』

『読む力は生きる力』(別ウインドウで開く)
脇 明子/著 岩波書店 2005年1月

「本を読むことは、いったいなぜ必要なのか」
この疑問に自分なりの答えを導き出してくれた本です。書名だけでもダイレクトに「読書イコール生きる力」と捉えることができますが、読むとそんなに単純な話ではありませんでした。子どもが本を読むことの大切さを軸に、「読む力を育てる本」とはどのようなものか、そんな本を手渡すために大人は何をすればよいのかが説かれています。今日の子どもを取り巻く社会や生活の変化も深く洞察して、メディアや映像の影響、脳の発達などにも触れています。所々で、大学生の読書遍歴(小学校ではたくさん本を読んだのに、中学・高校になると年齢相応の本に歯が立たなかった、など)と本嫌いの要因にも正面から向き合っているので、読書から遠ざかったことのある人(現在も)は自分を顧みながら読むこともできそうです。
あの職員会からさらに5年ほど経った今、私もひとりの娘を持つ親になりました。20年近く前に出版された本なのに、今読んでも、いや親となった今だからこそ、著者の言葉ひとつひとつが突き刺さります。私も、子どもが「物語の世界をたっぷり味わってほしい」「本好きになってほしい」と願わずにはいられません。子どもにかかわるすべての大人に、ぜひとも一度は手に取ってほしい一冊です。

『読む技術 成熟した読書人を目指して』

『読む力は生きる力』が子どもの読書の大切さを述べたものだったのに対し、こちらは大人が、どうしたら本を広く深く読むことができるのか、そして生涯にわたって本を読むことが心を豊かにしていく最良の方法であることを明らかにしながら、読書の本質を考察しています。抽象的なことだけでなく、梶井基次郎の『檸檬』を題材に読むときの五つのポイントを挙げたり、旅行のテーマを「親鸞の事跡めぐり」に設定して本を集めて読んでから出かけたことが登場したりと具体的に示されているので、「生活の中に『本』という存在がどのように生きてくるか」がとても身近に感じられました。
インターネットが社会基盤としてその役割を強めている今日、読書は電子書籍でするという人、読むという行為自体は日々ネット上で行っているという人もいます。ネット時代の読書に前向きに触れながらこの本は終章を迎えます。
文章を正確に解釈する「受容」から、自分で考え世界を切り拓く「創造」の読書へ。この「創造」の読書が、人と人、人と社会をつなぎ「生きる力」を根底で支えてくれるのです。

飯田市立図書館では、12月17日日曜日の午前10時から、『読む技術』の著者・塚田康彦氏をお招きして、読書推進講演会「読む技術~受容する読書から創造する読書へ~」を開催します。本を読むにはどんな読書をすればいいか、その学び方や、子どもたちの読書力や読解力をつけるための方策をお聞きします。ぜひご参加ください。

詳細・申し込みはこちらから(https://www.iida.nanshin-lib.jp/0000001072.html(別ウインドウで開く)

よむとす

「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。

飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。