中央図書館 唐木 知子
日本で初の女性の総理大臣が誕生しました。やっと日本も、という報道が目立ちましたが、世界経済フォーラムが算出したジェンダー・ギャップ指数(男性に対する女性の割合を示したもの。内閣府男女共同参画局ホームページに掲載)は、148か国中118位(2025年6月)。特に経済と政治の参画の比率が低いという報告がなされました。そこで今回は、女性にスポットライトを当てた本をご紹介します。
国会議員の二人の女性、地方の市議会議員の女性、女性秘書、女性記者などが登場し、さまざまな年齢や立場の女性たちの目線で物語が展開されていきます。女性の政治への参画の難しさやLGBTQの問題など扱われるテーマは多岐に渡っています。女性が男性と渡り合うことは、こんなに厳しいことなのか!と驚くことや、思わず「あるよねー」とうなずく内容まで幅広く取り上げられており、それぞれの人物から目が離せません。私が女性だから共感できることが多いのでしょうか。これを読んだ男性の皆さんのご意見も聞きたいところです。
『対決』では、医学部の不正入試問題にかかわる二人の女性、記者と大学職員の姿が描かれています。男性優位の社会で、それぞれの立場でたくさんの理不尽に直面してきたという共通点があるにもかかわらず、敵対しなくてはならない二人の女性が主人公です。それぞれが背負っているものがあることが分かり、読み進めることがつらい場面もありましたが、この二人の女性が選ぶラストに新しい未来が見えました。
医学部の大学入試における男女の合格率の差を取り上げたスピーチと言えば、女性学・ジェンダー研究のパイオニアである上野千鶴子氏が行った平成31年度の東京大学入学式の祝辞が有名です。覚えていらっしゃる方もいるでしょうか。その祝辞もぜひ読んでいただきたいですが、『対決』では、性差という差別の問題が自分の身近で起きていることを感じさせてくれます。社会問題をテーマにした話題作を多数書き上げてきた著者ならではの切り口で、最後まで目が離せない展開です。
(※上野千鶴子氏の祝辞は東京大学のホームページでご覧いただけます。)
こちらの本は、上野氏がこれまで取り組んできたこと、その結果変えられたこと、課題として残っていることがまとめられています。この中で、社会的文化的に作られた性差(ジェンダー)で虐げられてきた女性に限らず、すべての社会的に弱い立場の人が弱者のままで尊重される思想がフェミニズム(女性運動)であると紹介されています。世の中の見方が変わり、今まで気づかなかった視点に目を向けられる一冊です。若い世代の皆さんにもぜひ読んでいただいて、世の中を見る目を養ってほしいと思います。
女性をテーマにした本を紹介しましたが、結局は“女性か男性か”という性差ではなく、“一人の人間として”どう考えているのか、という点に行きつくように思います。本を読むことで、普段の生活では見過ごしてしまうような問題に目を向けたり、今までとは違った見方や考え方に触れたりして視野を広げ、新しい価値観を知っていきたいですね。
「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。
飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。