【北方】 篠原 樹生
最近、鼎図書館によく通うようになりました。小さな図書館なので、本棚の前であれこれ迷うことなく、気軽にじっくり本を選べるのが気に入っています。その中で出会った本が、青山美智子さんの『赤と青とエスキース』です。2022年に本屋大賞の2位に入賞した小説です。
この物語の中心にあるのは、オーストラリア・メルボルンで描かれた一枚の「エスキース」という絵。四つの章とエピローグで構成されていて、各章それぞれ異なる人物が登場しながらも、不思議と「エスキース」とつながっていきます。登場人物たちは、恋愛、仕事、将来の夢など、誰もが一度は抱くような悩みや葛藤を持っています。弱さを抱えながらも、迷いながら真っ直ぐに生きようとする登場人物の姿に、読んでいて自然と温かい気持ちになりました。また、物語の中で、印象的に描かれる「赤」と「青」の対比が登場人物の人間関係や心情を表現しているところも読み所の一つです。そして最も印象に残ったのがエピローグ。予想外の展開に驚いて、思わず最初から読み返してしまいました。
本作は、各章が短編になっていて読みやすく、ちょっとした空き時間にも気軽に楽しめます。学生から大人まで、どの世代の方にもおすすめしたい、心がじんわり温まるような一冊です。
これをきっかけに、青山美智子さんのほかの作品も手に取るようになり、『月の立つ林で』(別ウインドウで開く)や『チョコレート・ピース』(別ウインドウで開く)も読みました。どれもやさしさにあふれた物語で、次はどんな本を読もうかと思うと、今から楽しみです。
令和7年度に、飯田市立中央図書館は開館110周年を迎えます。記念事業のひとつとして、本と人との出会いの場を広げるために、市民の皆さんからもおすすめ本紹介文を募集し、「よむとす」として掲載していきます。
「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。
飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。