飯田市教育長 熊谷 邦千加
今回ご紹介する本は、難しい漢字にはルビがふってあり、小学生でも読める本ですが、大人にとっても楽しめる2冊です。人の生き方を知ることは、自分の生き方を考えること。そう思える本です。
今年五月十三日に亡くなったと大きなニュースにもなったウルグアイのムヒカ元大統領。彼は、「世界でいちばん貧しい大統領」として有名でした。
「貧乏とは少ししか持っていないことではなく、無限に欲があり、いくらあっても満足しないことです。」これはムヒカ大統領の言葉です。この言葉を知ったとき、欲だらけの自分に対して言っているのではないかという思いになりました。
そのムヒカ大統領が注目されたのは、二○一二年にブラジルで開かれ、環境が悪化した地球の未来について話し合う国際会議でのスピーチです。そのスピーチが、この絵本になっています。
ムヒカさんの自宅や生活ぶり、自家用車が当時報道されましたが、大統領の自宅や自家用車とは思えないほどの質素なものでした。そんなムヒカ元大統領のスピーチ全文を素晴らしい絵とともに読むことができます。幸せと何か、生きることとは、そんなことを問いかける絵本です。
子どもの頃、国際救助隊を人形劇で描いたイギリスのテレビ番組「サンダーバード」が日本語吹き替え版で放映されました。登場人物の中で、運転手に「お嬢様」と呼ばれ、ピンクの車に乗る諜報員「ペネロープ」の声を吹き替えていたのが黒柳徹子さんで、子ども心にもとても印象に残っています。
その後、学生の頃の私が買い求めて今も大切にしている『窓際のトットちゃん』(1981年講談社)の続編として40年ぶりに発行されました。
この本は、トットちゃんこと、黒柳徹子さんが子どもの頃の戦前、戦中、戦後、そしてテレビ等で活躍する昭和の時代を描いた自伝です。素直で思ったことを口に出し、さまざまな出来事を乗り越えていくトット。恵まれた生活も戦争で不自由さとひもじさに変わり、疎開することとなるその道行は、ハラハラドキドキします。戦争の恐ろしさを直接表現しなくても、トットの視線や感受性でそのことが十分に伝わってきます。「無責任だったことがトットが背負わなくてはならない『戦争責任』なのだと知った。」という言葉が心に刺さります。
戦後、NHK劇団でしゃべり方がおかしいと周りから叱られ、役を下ろされ打ちひしがれて涙が止まらないトット。しかし、あるラジオドラマの声の出演者に選ばれたトットは、劇作家の先生から「直しちゃ、いけません。あなたのしゃべり方がいいんです。」と言われ、心の中の空がパーッと晴れていく。まさに、ペネロープの声の記憶が残っていたこととつながりました。
令和7年度に、飯田市立中央図書館は開館110周年を迎えます。記念事業のひとつとして、本と人との出会いの場を広げるために、市民の皆さんからもおすすめ本紹介文を募集し、「よむとす」として掲載していきます。
「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。
飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。