上郷図書館 田中 瑞絵
有名な落語の演目に『寿限無(じゅげむ)』という話があります。こどもに良い名前をと考え、教えてもらった縁起が良いとされる言葉を全部つけてしまい、とんでもなく長い名前になってしまったという笑い話です。こどもの幸せを願うあまり大変なことになってしまいますが、いつの時代もこどもの幸せを願う気持ちは変わらないものだと感じさせてくれます。
この世に生まれて最初の大切な贈り物、名前。それぞれにいろんな願いや希望が込められています。
あなたの名前は何ですか?そこにはどんな物語がありますか?
へいたろうは自分の名前が好きではありません。友達に「昔の人みたい」なんて笑われるからです。もっとかっこいい名前をつけて欲しかったと思うへいたろうは、どうしてこんな名前をつけたのか、名前を考えたお父さんに聞きに行きます。お父さんから自分の名前に込められた想いを聞き、お母さんから、この名前以外は考えられない大好きな名前だと言われると、あんなに嫌だと思っていた名前を、もっと呼んでほしいような不思議な気持ちになってきます。そして、こう思います。「なまえってかっこいいほうがいいけど、でも、じぶんでじぶんのなまえをかっこよくできたら、それってすごくかっこいいかもしれない。」
自分の名前を良い名前にするのも、嫌な名前にするのも自分次第。その事に気付けたへいたろうには、お父さんが願ったような幸福な未来が待っているはずです。
俳句、短歌、エッセイ、小説、童話などさまざまな分野で活躍する作家くどうれいんさんが日々のあれこれを綴ったエッセイ集です。
この中に、名前について書かれた一文があります。これまで俳句や短歌の時は漢字表記にしていた筆名を、すべての作品でひらがな表記に統一するという内容で、身を切るような思いで「ぼろぼろ泣きながら」この決断を下すまでの様子が綴られています。学生時代から十数年使い続けてきた本名でもある漢字表記の名前を手放すことで、できなくなる事がある気がしたし、漢字フルネームの自分の存在が消えてしまう気もして別れ難かったのだそうです。決断をするにあたって、何人かの恩人に相談するうち、これは別れではなくむしろ自由が広がる決断で、何かが無くなってしまうかどうかは自分次第なのだと思い至ります。
このエッセイのタイトルは『深く蔵す』
相談した恩人の一人から送られてきた高浜虚子の句「龍の玉深く蔵すといふことを」からきています。大切な名前を心深くに宿し、風のように自在に前へと進む姿が思い浮かびます。
世界にはどんな名前があるのでしょうか。また、どんな風に名づけをしているのでしょうか。
この本は、古代から現代にいたる世界の国や地域、言語、神話や物語などの名前について書かれているエッセイを集めて、名前の仕組みや由来、歴史、名づけの方法などを紹介したものです。
世界には、こどもにわざと汚い名前や不吉な名前をつける風習のある地域があったり、『寿限無』のようにとても長い名前があったり、つけてはいけない名前が事細かに決められていたりとさまざまな名前や名づけがあります。一見、奇妙な名前でも、そこには深い愛情と願いが込められています。いつの時代も、どんな国や地域でも、こどもの幸せを願う想いは共通のようです。
「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。
飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。