鼎図書館 長谷部 陽菜
ミステリーのジャンルの1つに、クローズドサークルというものがあります。クローズドサークルとは、外界から閉ざされた空間で起こる事件や謎が題材となっている作品をいいます。例えば、絶海の孤島、雪山の山荘、走行中の列車や客船の中など。外部との連絡手段も、交通手段もない中で発生する事件に、登場人物たちの緊張感が伝染して、読者までドキドキしてしまうところが、クローズドサークルの魅力だと思います。
クローズドサークルを代表する作品と言えば、私が真っ先に思いつくのは、アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』です。
舞台は、イギリス南西部に位置するデヴォン州海岸沖にぽっかりと浮かぶ孤島、通称“兵隊島”。その島に、互いの顔も知らない10人の男女が招待されるところから物語が始まります。招待された10人は、皆それぞれある罪を犯していました。1日目の夜、彼らの罪を告発する声が響き、ひとり、またひとりと、招待客が次々に殺されていきます。小さな兵隊さんの出てくる童謡の歌詞通りに殺されていく彼ら。やがて最後のひとりが死に、“そして誰もいなく”なります。
では、犯人は一体誰なのでしょうか。全てはエピローグで明かされます。ぜひ、最後まで読んで、謎が一気に解ける驚きと恐怖を、体験してみてください。
大学時代のサークル仲間5人と、自身の従兄と共に長野の山奥へ遊びに来た柊一。彼らは、ある巨大な地下建築を訪れました。地面の下に埋められているその建築物は、地下3階建ての巨大な貨物船のようで、“方舟”と呼ばれていました。すでに日も沈み、その日は“方舟”で一泊することにした柊一たち。そこへ、とある3人家族が道に迷ってしまったと加わって、結局10人で夜を明かすことになります。
ところが夜明け頃、巨大な地震が“方舟”を襲い、それによって出口が岩でふさがれてしまいます。岩をどかすには、地下2階にその岩を落とすしかありません。しかしそうすると、岩を落とす誰かひとりが、地下2階に閉じ込められてしまうのです。そんな状況の中、ひとりが遺体となって発見されます。犯人以外の8人は、こう考えます。「岩を落とす生贄には、その犯人がなるべきだ」と。果たして、柊一は無事地上へと脱出することができるのでしょうか。
二転三転する展開に、迫るタイムリミット、次々殺されていく“方舟”の同乗者。緊迫の謎解きを楽しんでください。
乗鞍高原のペンションに集まった男女7人。彼らは、とある舞台のオーディションに合格した劇団のメンバーでした。舞台の稽古という名目で集められた彼らに課せられたのは、雪で外部との連絡が取れなくなった山荘での殺人劇を演じることでした。
当初は戸惑っていた参加者たちですが、ひとり、またひとりと確実に仲間が減っていき、徐々にある疑惑を抱き始めます。「これは本当に演技なのか」「いなくなった人たちは、実際に殺されてしまったのではないか」
現実の殺人か、演技か、最後までわからないので、私は続きが気になって一気読みしてしまいました。読み終えたとき、何とも言えない充足感があり、ミステリーっていいなと改めて思いました。
昨年、映画化もされ、話題となった作品です。今までミステリーを読んだことのない方もぜひ、読んでみてください。
「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。
飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。