中央図書館 篠田 眞利
高齢で農業をやめる人が多いと最近よく聞きます。今までおいしい作物を実らせてきた肥沃な大地、その土地にあった作物を育てる農家さんの知識がそこで失われてしまうのは残念でもったいないと感じます。なんとか、次に繋げていくことはできないものかと考えさせられます。
今回は、「野菜を育てる」をテーマに本を紹介します。
プランター栽培は、畑がなくても身近なところで野菜の育ちを見ながら、すぐに収穫できるという魅力があります。本書はプランター栽培を始める人に向けて野菜の育て方・育ち方を、イラストを多く使いわかりやすく解説してくれます。
例えばアンデス高地生まれ育ちのジャガイモは、荒れ地で太陽を浴びたタフガイのイラストで表現されていて、「オレは冷涼で乾燥した気候と、太陽の強い光が大好きなんだ」と自己紹介します。野菜の生まれ育ちや性質を知ることで、それぞれが個性豊かなのだと改めて感じ、野菜がぐん!と身近な存在になります。見ているだけで何か育ててみたいと思える本です。初心者の私は、まず大好きな枝豆から育ててみようと計画中です(しっかり実るかしら…)。イラストも楽しいので本を見ながらお子さんと一緒に野菜を育ててみるのもよいのではないでしょうか。
この本は著書の体験が記されています。前作『その農地、私が買います』(別ウインドウで開く)は、2019年、著者の父が娘の「わたし」には何も話さず、こっそり愛媛の実家の田んぼを業者に売ってしまったことから始まります。決めたことを覆すため、農地を買い、若者たちとチームで農業をしてなんとか続けようと奮闘します。本書はその続編になります。
東京で作家、愛媛で農業を行う二拠点生活、農業初心者の若者たちとのチームでの農業は継続できるのかと心配しながら読み進めましたが、著者は試行錯誤しながら農業を続けていました。畑をサルやイノシシに荒らされショックを受けつつも、柵や網を張るなど対策をして前に進みます。あぜ道の石積みが崩れれば、地元の方に助けてもらいながら自分でも石積み学校で勉強して、石積みを直します。やらなければならない事が山積みで押しつぶされそうになりながらも、農業はずっと続くからこそ楽しいものにしようと仲間と音楽を奏でたり、畑でキャンプをしたりします。
著者の父は苦労して農業を繋いできたせいか、田畑は負の遺産という感覚があり、みかん畑を売ってほしいという業者が現れれば、前作同様に興味を示します。
私は、農業がツライだけのものであってはほしくないし、苦労して育てた分だけ、その努力が報われるものであってほしいと思います。チームでする農業の難しさもあるけれど、これからも楽しく農継ぎが続いていくことを願っています。
本書を読むと地元の農家さんのことも応援したくなります。私の食卓に伊那谷のおいしい野菜や果物、お米が並ぶのも農家さんのおかげです。感謝!そして私も菜園を継ぐ一人でありたいと思いました。
この地域が天候に恵まれ、すべての作物が虫や獣からも守られ、実り豊かなよい一年となりますように。
「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。
飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。