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よむとす No.316 心配性さんへ

[2024年4月1日]

ID:1105

心配性さんへ

鼎図書館 長谷部 陽菜

「もし失敗したらどうしよう…」「あの言い方で大丈夫だったかな」心配性さんの頭の中は、いつもよくない想像でいっぱいです。
私も、小学生の頃は、念のため、その日授業がない科目の教科書まで毎日持って行っていました。おかげで足腰は鍛えられたと思います。
今回は、そんな“心配事”にまつわる本をご紹介します。

『向田理髪店』

『向田理髪店』(別ウインドウで開く)
奥田 英朗/著 光文社 2016年

北海道のある町で理髪店を営む、心配性の店主・向田康彦が、町で起こる“ちょっとした”でも康彦にとっては大きな事件に、真剣に向き合っていく姿を描いた、連作短編小説です。
舞台は、北海道苫沢町。かつて炭鉱で栄えたその町は、過疎化の一途を辿っていました。ある日、札幌で働いていた息子が、突然「店を継ぐ」と言い、会社を辞めて苫沢に帰ってきます。それ自体は嬉しいことのはずなのに、康彦は素直に喜べません。「札幌でなにかあったんじゃないか」「こんな寂れた町ではやっていけないだろう」などと、いろいろと考え込んでしまいます。周りのひとたちからは、「考えすぎだ」とか「もっと楽観的に生きたらどうだ」と言われる康彦ですが、その言葉も「無責任だ」と感じてしまいます。心配事というのは、当事者にしかわからない葛藤があるものです。康彦と町のひとたちが、どのような未来を選び取っていくのか、皆さんも一緒に見届けてあげてください。
こちらの表題作のほか、中国から花嫁が来た話、苫沢に映画のロケ隊がやってきた話、町の知り合いの息子が指名手配犯になった話など、小さな町で起こる騒動を、康彦の視点で丁寧に描き出している作品です。

『心配事の9割は起こらない』

私が最初、この本を手に取ったのは、タイトルに惹かれたからです。「心配事の9割は起こらない」。この言葉だけでも、十分心が軽くなった気がしました。
心配事というのは、その大半が自身の思い込みや妄想で、実体がない。だから、心配事の先取りをしないよう、いろいろなものを“減らす”ことが大切だと、著者の枡野俊明さんは言います。枡野さんは、曹洞宗の住職です。この本では、禅僧である著者が、禅の教えを軸に、心配事や悩み事で重くなってしまっている心を、ふっと軽くするような考え方を、わかりやすく説いてくれています。
例えば、「妄想しない」。禅の世界では、心を縛るもの、心に棲みついて離れないものすべてを妄想と言うそうです。枡野さんは、「ものごとを対立的にとらえる考え方」が、妄想を生み出している根源にあるのだと言っています。誰しも、なにかを比較して、どちらが良くてどちらが悪いと考えることで、ずーんと悩んでしまう経験が、あるのではないでしょうか。しかし、禅では、どんなものもどんな人も、他とは比べようがない「絶対」の存在なのです。「比べようがない」のです。この文を読んだとき、少し気持ちが楽になりました。

あれこれ考え事をしていると、心が疲れてしまいますよね。そんな時には、読書をして、心を落ち着かせてはいかがでしょうか。

よむとす

「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。

飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。