ページの先頭です

共通メニューなどをスキップして本文へ

スマートフォン表示用の情報をスキップ

よむとす No.302 愛すべき鳥

[2023年8月15日]

ID:1001

愛すべき鳥

中央図書館 森山 ゆり

夏になると窓を開けていることが多くなり、外から野鳥の声がよく聞こえてきます。鳥好きの私は、ついつい聞き入ってしまいます。今回は鳥に関する本を3冊紹介します。

『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』

著者は小笠原諸島を中心に30年近くにわたって島の鳥の生態、進化、保全についての研究をしている専門家です。NHKラジオ「子ども科学電話相談」の鳥担当でもお馴染みの先生。
鳥類学者と聞くと、私の中では実験室にこもって剥製などをいじっているイメージなのですが、この本を読んで、日夜鳥を追いかけ研究する鳥類学者の実態を知り、「こんなことまでしているの!?」と驚きの連続でした。例えば、崖からの落石のある危険な場所でキャンプをしたり、夜間の調査中、深呼吸するたびに肺にコバエが入ってきてしまったり…!そんな時には「ハエは鳥の死体を食べて育っているのだから体の素材は鳥肉100%!口に入っているのはハエの形をした鳥肉だ!それなら我慢できる!」といった具合に無理矢理(?)ポジティブに物事を考えながらサバイバルともいえる調査を行っている著者に思わず吹き出しながらも感心するばかりです。
命がけの調査をし研究結果も地味に終わり、鳥類学者って大変だーと思いますが、研究者がいるからこそ図鑑や資料が充実し、図書館でもありがたく調べものなどにも使わせていただいているんだという感謝の気持ちがわきました。
小笠原諸島における外来種の排除、在来種の保護、生物の多様性を守ることの重要性についても考えさせられる一冊です。そして、タイトルに反して著者の鳥への深い愛が伝わってきます。


『ペンギンが教えてくれたこと ―ある一家を救った世界一愛情ぶかい鳥の話―』

『ペンギンが教えてくれたこと ―ある一家を救った世界一愛情ぶかい鳥の話―』(別ウインドウで開く)
キャメロン・ブルーム/著 ブラッドリー・トレバー・グリーヴ/訳 マガジンハウス 2016年12月

タイトルを読んでペンギンが出てくるのだと思いきや、表紙の写真は鳥だけどどう見てもペンギンではないぞ…と思いながら手に取りました。この本に出てくるのは「ペンギン」という名前をつけてもらったカササギフエガラスという鳥でした。
オーストラリア、シドニーに住むブルーム一家に起きた実話です。写真家のキャメロンと妻のサム、3人の息子たちは幸せな生活を送っていました。ところが家族旅行の最中に、読みすすめるのが辛くなってしまうような不慮の事故がサムの身に起きます。一命はとりとめたものの骨髄損傷で半身不随となってしまったのです。
そんな時…ブルーム一家の前に姿を現したのが「ペンギン」でした。「ペンギン」はまだ生まれて間もない雛で、巣から落ちて動けなくなっているところを発見されました。ひどい傷を負っていたので傷が完治して独り立ちできるようになるまで面倒をみることにしたのです。羽が白黒模様であるというごく単純な理由から子どもたちが「ペンギン」と名付けました。「ペンギン」とサムはいつもどちらかがどちらかの世話をしているような状態で過ごしていくようになります。サムは、傷ついた自分が助けられる存在ではなく、助ける存在になることで少しずつ前向きになり、辛いリハビリにも耐え、車いすで移動できるようになります。そして現在はカヤックの選手権に出場するまでになったのです。
私は「ペンギン」とサムから勇気と前向きな気持ちをもらいました。「ブルーム家の人々」と紹介されている一枚の写真に五人が微笑んでいて、目線の先に「ペンギン」がいます。その写真がとっても素敵だなと感じました。


『空の飛びかた』

『空の飛びかた』(別ウインドウで開く)
ゼバスティアン・メッシェンモーザー/作  関口 裕昭/訳 光村教育図書 2009年4月

デッサンのようなタッチで白黒を基調として、シンプルに描かれている絵本です。シンプルな中にやわらかさや味があり、臨場感もある絵に私はすっかり魅了されてしまいました。
「空から落っこちたんだよ、」という一羽のペンギンと一人の男が出会ったことから始まる物語。ペンギンが空を飛べないことを知りながらも「一羽の鳥になりきってやればきっと飛べる」と、大真面目に思い込んでいるペンギンを引き取り一緒に生活をします。空を飛ぶために航空力学のテスト、耐久能力のテストをし、一緒に専門書も読みあさります。ペンギンの読む専門書のセンスと、じっくり読み込んでいる様子が伝わってくる姿勢がなんとも可愛らしくて私は大好きです。一羽と一人の空を飛ぶんだ!という一生懸命な気持ちや、いつのまにか仲良くなっている様子が絵からうかがえ、心が和みます。
この本を読んだ中学生の息子の感想は「シュールで、じわじわくる面白さがある。何度も読みたくなる」というものでした。皆さんはどんなふうに感じるでしょうか?個人的には大人にこそおすすめしたい絵本かなと思います。


よむとす

「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。

飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。