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よむとす No.298 今、戦争を考えよう

[2023年6月15日]

ID:991

今、戦争を考えよう

上郷図書館 矢澤 恵

今日も世界のあちこちで戦争が続いている。毎日、ニュースでたくさんの死が伝えられている。このニュースに慣れてはいけないと思う。


『戦争で死んだ兵士のこと』

戦争で死んだ兵士のこと(別ウインドウで開く)
小泉 吉宏/作 KADOKAWA 2001年12月(元の版は1997年12月)

「今はのどかな森の中の湖のほとり、ひとりの兵士が死んでいる。1時間前、兵士は生きていて闘っていた。2時間前、兵士は…」3日前…、5日前…、4年と9か月前…、淡々とした口調とシンプルなイラストで一人の兵士の人生をさかのぼっていく。
毎日のように戦争による死者が報じられる中で、兵士と民間人の扱いの違いに、私は違和感を抱いてしまう。5万人の兵士が死亡した、300人の民間人が亡くなったと伝えられた時の報じ方と、受け取る印象。兵士はひとくくりの数で報じられ、そして、ひとくくりの数は、大きな数になればなるほど、数は単なる数になってしまう。
この本は、ひとくくりにされてしまうその一人ひとりに、大切に思うひとがいて、育ってきた日常があって、悲しいことも、楽しいこともあり、誰かに愛され、誰かを愛していた人生があった普通の人だったと、当たり前のことをあらためて思わさせられる。
戦争の場面はない。でも、戦争で死ぬってこういうことだ。命が突然奪われることの理不尽さを、強烈に認識させられる。1,2分で読み切れるほどの少ない言葉で伝えられる大きなメッセージに、読んでいて辛くて胸が痛くなった。
でも、今、ぜひ多くの人に読んでほしい本だと思う。

『西部戦線異状なし』

西部戦線異状なし(別ウインドウで開く)
レマルク/著 秦 豊吉/訳 新潮社 2007年1月

第1次世界大戦後の1929年に、ドイツで出版された長編戦争小説。第一次世界大戦の激戦地・西部戦線を舞台に、ドイツ軍の若い志願兵パウル・ボイメルの視点で戦場の虚しさ描いている。(日本での最初の邦訳も1929年。)
「西部戦線」とは、ドイツと英仏連合国軍が対峙した、前線が700kmにわたる激戦地で、消耗戦が続き合わせて1000万人が死亡、2100万人が負傷したと言われている。第1次世界大戦は大量破壊兵器が使われるようになり、戦争のあり方が大きく変わった戦争だった。ひとつの爆弾や毒ガスで多くの人が死ぬようになり、撃った側にも死者の顔は見えず、さらに多くの戦死者がひとくくりの数のみで伝えられるようになる。まさに多少の攻撃ぐらいでは「異状なし」とされてしまう。
作者自身も西部戦線に配属され、塹壕戦を戦い重傷を負っている。その体験をもとに、ひとりの若い兵士パウルの戦場でのさまざまなシーンを描く。普通の若者だからこそ、戦争の極限状態が際立つと思う。そして、この戦争から100年たった今でも同じように戦争が続いていることに改めて愕然とする。


よむとす

「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。

飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。