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よむとす No.296 推す女

[2023年5月15日]

ID:984

推す女

中央図書館 小原 文香

身近になった“推し”という言葉。2021年には宇佐美りんさんの『推し、燃ゆ』(別ウインドウで開く)が芥川賞を受賞し話題となりましたが、推す女をテーマとした作品は、時代を映すひとつのジャンルになりつつあると感じます。

『介護者D』

『介護者D』(別ウインドウで開く)
河崎 秋子/著 朝日新聞出版 2022年9月

契約社員の琴美は年下の女性アイドルの推し活を断念し、父の介護のため東京から札幌へ帰ることを決めます。父は元塾講師で、生徒や娘たちにランクをつけており、琴美は出来の良い妹と比べられてきたため劣等感を抱いてきました。琴美は介護に悩む自分の状況を「よくあること」と片づけられてしまうことや、自分の家庭を持つ妹や友人との相容れなさに辟易とします。かといって、逃げることも大きな行動も起こせない中、琴美が推しのコンテンツに励まされる様子はリアルに感じられます。そして、推し活に理解のないと思っていた父の秘密には衝撃を受けました。


『がらんどう』

『がらんどう』(別ウインドウで開く)
大谷 朝子/著 集英社 2023年2月

主人公の平井は共通の男性アイドルが推しの菅沼と意気投合します。菅沼からルームシェアを提案されますが、30代後半でその選択をするということは、恋愛・結婚・出産をあきらめることなのか? と葛藤します。多様な人生の選択肢がある現代ですが、生まれ育った環境の“当たり前”に縛られてしまうことは誰にでもあるのではないでしょうか。平井も、周囲が自分とは違って“当たり前”に見えて、彼らからの悪気はないであろう言葉に複雑な気持ちになってしまいます。113ページと比較的短い小説ですが、漠然と「満たされていない気がする」心情の表現が秀逸です。

『ミーツ・ザ・ワールド』

『ミーツ・ザ・ワールド』(別ウインドウで開く)
金原 ひとみ/著 集英社 2022年1月

腐女子の由嘉里の推しは焼肉を男性に擬人化した作品です(作中に出てくる推しの設定や描写があまりにも緻密で、実在するのではないかと思うほどでした)。合コンで腐女子であることを勝手に公表され、居づらさに酔いつぶれたところを美しいキャバ嬢のライに拾われます。ライは「私はこの世界から消えなきゃいけない」と言い、自分はこの世界に存在すべきではないのだ、という死生観を持っています。由嘉里はその考え方に納得できず否定しますが、ライをとりまく人々と交流するうちに心境が変化します。幸せとは何なのか、推しがいて楽しいだけじゃダメなのか、固定概念にとらわれる主人公に自分を重ねてしまいました。


よむとす

「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。

飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。