上郷図書館 小原 文香
現存する日本最古の歴史書『古事記』。「天の岩戸」「ヤマタノオロチ」などのエピソードは有名ですが、これらがつながったエピソードであることをご存知ですか。
『古事記』では、序盤からアメノミナカヌシ、タカミムスヒ、カミムスヒ、ウマシアシカビヒコヂ、アメノコトタチ…と大勢の神様が登場します。こんなことを思うのは失礼にあたるのですが、神様の名前は漢字でもカタカナでも長いため覚えづらく、判別もしづらいのです。でも、今回紹介するのは、「この神様誰だっけ」と読み返すことなく、最後まで楽しく読めること間違いなし!のやさしい『古事記』です。
『ももたろう』(別ウインドウで開く)『スーホの白い馬』(別ウインドウで開く)の絵でご存じの方も多い赤羽末吉さんと、児童書を数多く手掛ける舟崎克彦さんの絵本です。全6巻で、いずれも『古事記』の有名なエピソードが抜粋され、絵本という限られたページ数で、簡潔にわかりやすく描かれています。
横長の絵本で、場面による絵や文の使い方も秀逸です。表紙にも使われている伊邪那岐(いざなぎ)が追いかけてくる鬼に桃を投げつけているシーンは、この第一巻の中では唯一文のないページで、非常に印象的です。また、天の浮橋の上から矛を差して島を創造するシーンでは、人物を小さく描き、天と地の隔たりと国の大きさが伝わります。
『五月女(そおとめ)ケイ子のレッツ!!古事記』(別ウインドウで開く)
五月女 ケイ子/作 講談社 2008年7月
作者の本業はイラストレーターで、一度見たら忘れられない独特な画風です。
“神様、出産ラッシュ”と題された最初の数ページは、登場するイザナキノミコトの髪は青、イザナミノミコトの髪はピンク(!)と、非常にポップです。コマ割をした漫画の下に対話形式の解説が添えられたページが多く、『古事記』に全く興味のない方でも楽しめる一冊です。
また、「いなばの白うさぎ」のエピソードでうさぎを助けたオオナムジ(のちのオオクニヌシ)には“オオちゃん”とあだ名をつけ、当時の世界には存在しない眼鏡をかけさせるなど、作者のイメージによるキャラクターの書き分けが斬新です。このように作者が工夫した部分の解説には、思わず笑ってしまいます。
富安 陽子/文 山村 浩二/絵 三浦 佑之/監修 偕成社 2017年12月
多くの児童文学を手がける富安陽子さんの文です。253ページあり、今回紹介した3冊の中では文章量が多く、詳細ですが、漢字にはふりがながふられ、すべてのページに挿絵があるので、無理なく読み進められます。小学生中学年くらいから読める作品です。
“国生み”と題された最初の章は「なになに、この国のはじまりのことをしりたいというのかな? よしよし、話してあげよう。」と、語りかけるような文で始まります。大人の本にあるような注釈はなく、重要な説明はすべて物語の一部として組み込まれています。“絵物語”というタイトル通りです。
この『絵物語古事記』は、先日、図書館のイベントに訪れた中学生が、おすすめの本として紹介してくれました。「神様はこのような破天荒なことをするのだろうか?」「生まれたり死んだり生き返ったりしすぎではないか」と誰もが疑問を持つような展開がみどころです。年代や時代を超えて楽しめる『古事記』、ぜひお手に取ってみてください。
「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。
飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。