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よむとす No.199 二番目に古い、ひとのともだち

[2019年5月1日]

ID:668

二番目に古い、ひとのともだち

中央図書館 北原 朋弥

 

ひとと暮らし始めた最も古い動物はイヌですが、そのイヌに次いで古いと言われているのが、ヤギです。

飯田市は、全国で三か所でしか開催されない子山羊市場の会場であり、そこでの出頭数は全国一。『飯伊の畜産』(関東農政局長野統計情報事務所、1990年)によると、古くから県内で飼養されているヤギの4分の1が飯伊地区とあり、ヤギとは縁の深い地域でもあります。近頃では家畜としてだけでなく、ペットとして、また除草目的としての飼育が増えてきたヤギ。ヤギっていったいどんな生きもの? その姿に迫ります。


『なぜヤギは、車好きなのか? 鳥取環境大学のヤギの動物行動学』

『先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます! 鳥取環境大学の森の人間動物行動学』(築地書館)など「先生」シリーズの著者による、鳥取環境大学のヤギ物語。

大学でヤギと言っても、農学部や獣医学部ではありません。あるのは、ヤギ部。部活動です。著者が講義で(それも思いつきで)「大学でヤギを飼ってみませんか」と発言したのをきっかけに、二十名ほどの学生と一頭の子ヤギ(その名も「ヤギコ」)とで誕生しました。多い時には五頭まで増えるヤギたちのエピソードを、この本ではエッセイ風にまとめています。

「動物行動学」が専門の著者。その視点から描かれたヤギたちは、一頭一頭個性豊かで、すぐ隣で草を食んでいるかのように身近に感じられます。ワガママな女王様・ヤギコ、柵から脱走しては駐車場の車を一台一台点検(?)するクルミとミルクの母娘ヤギ。小型種なのに果敢に頭突きに挑むファイター母娘・コハルとコユキ。そしてわずか一年でお別れしてしまった子ヤギのシバコ。彼らが引き起こす事件や、「天敵のヘビや、餌である青々とした草や葉をどのように認知しているか」を知るための実験など、ヤギという動物の特性を垣間見ることができます。

読み終えたとき、「ヤギと暮らしてみたい!」と思わずにはいられませんでした。イヌ科・ネコ科とも違うウシ科(そう、ヤギはウシ科なのです)のほ乳類の魅力ある姿を楽しめます。



『人間をお休みしてヤギになってみた結果』

『人間をお休みしてヤギになってみた結果』(別ウインドウで開く)

トーマス・トウェイツ/著 村井 理子/訳 新潮社 2017年11月


ちゃんとした仕事もなく、ガールフレンドとも喧嘩して、銀行からは口座の開設を断られた……。そんな著者・トーマスが人間に特有の「悩む」ことから解放されたくて「ヤギ男」になるという、イグ・ノーベル賞も受賞したサイエンス・ドキュメントです。一見(しなくても)ばかばかしく思えるこのプロジェクトに、トーマスは本気(マジ)で取り組みます。

まずは、科学的にヤギの知覚にアプローチ。自分の思考をヤギの思考に変えるため、ヤギの保護施設を訪れ、ロンドン大学では、脳の考えたり計画したり言語なんかを司る場所に磁気刺激を与えて話せなくなる実験をします。それから、四足歩行の研究のためにヤギを解剖し、草から栄養をとるための装置に試行錯誤して……(人間でいることよりも「人間をお休みする」ことの方が、よっぽど大変そう)。

まったくメチャクチャなプロジェクトを至って本気で進める描写に、時折挟まれる彼の本音(たとえば「僕、進むべき方向、間違ってない?」)に、何度も呆れ、吹き出しそうになりましたが、どうしたって憎めない彼の姿に最後まで読み切ってしまいます。

トーマスのヤギになる前のプロジェクト『ゼロからトースターを作ってみた(別ウインドウで開く)』(飛鳥新社、2012年)も併せてどうぞ。


『小やぎのかんむり』

『小やぎのかんむり』(別ウインドウで開く)

市川 朔久子/著 講談社 2016年4月


ヤギと聞くと、思い浮かぶのは『三びきのやぎのがらがらどん』。このお話は、そんな『がらがらどん』の引用から始まります。

厳格で高圧的な父と、それに従う母。中高一貫校に通う中学3年生の夏芽は、そんな毎日から逃げるかのように、遠く人里離れたお寺でのサマーキャンプに応募します。だけど、参加者はたった一人……、のはずが、最初の夜に布団の上で丸くなって眠る男の子・雷太を発見し、物語はどんどん動き始めます。

「かくれんぼして、くらくなるまでみつからなかったら、やまのホテルにとめてもらえる」

そう主張する雷太を、住職、その孫娘・美鈴さん、そして見習い僧侶・穂村さんは受入れ、奇妙な同居生活(サマーステイ)がスタート。そこへ、三匹のヤギ・後藤さん、ビンゴ、クララと、近所の高校生・葉介も加わります。

ヤギと触れ合う雷太と、ヤギにも子どもにもまっすぐに向き合う葉介の姿がまぶしい。そして自分の家族と、家族に対する複雑な感情とに苦しむ夏芽の姿は、いっそう心に刺さります。お寺の大人たちにもそれぞれに抱えるものがあり、そんな登場人物たちを著者は丁寧に描いています。ほとんどお寺にいない、一風変わった住職・タケじいの鋭い発言にはシビれること間違いナシ。

 書名の『小やぎのかんむり』、その意味が胸を打ちます。


よむとす

「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。

飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。