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よむとす No.186 活字に魅せられて70年 塩澤実信の本

[2018年10月15日]

ID:600

活字に魅せられて70年 塩澤実信の本

中央図書館 宮下 裕司

竜丘出身の出版ジャーナリストで作家の塩澤実信氏。100冊をこえる著作は、出版に関する伝記以外にも、相撲、歌謡曲と多彩です。その中から、ごく一部をご紹介します。


『出版街放浪記 活字に魅せられて70年-。』

塩澤氏の108冊目の本が今年出版されました。終戦直後のロマンス社からはじまった塩澤氏の出版人生を振り返る1冊です。東京タイムズ社では、後輩編集者で後に作家となる団鬼六との思い出にふれ、最も長く勤めた双葉社では、有名な阿佐田哲也の「麻雀放浪記」を週刊誌の編集者として手がけたことなどが語られています。終戦直後の昭和20年代から40年代にかけて、浮き沈みの激しい出版業界を生き抜いてこられた塩澤氏の文章には、時代の勢いを伝える迫力があり、思わず引き込まれます。

その後、独立した塩澤氏は、出版社と出版人の姿に焦点をあてた『出版社の運命を決めた一冊の本』(別ウインドウで開く)を書き上げて、出版ジャーナリストとしての立場を確立します。また、出版以外にも、児童向けノンフィクションや相撲評論、昭和の歌謡曲など幅広い執筆で、80歳をすぎた今もなおご活躍です。この本を通じて、これまでの塩澤氏の著作を手に取ってみませんか。



『飯田の昭和を彩った人びと』

『飯田の昭和を彩った人びと』(別ウインドウで開く)

塩澤実信/著 一草舎出版 2008年5月


塩澤氏は出版ジャーナリストとして、出版人の伝記を数多く手がけてこられました。この本は、昭和に活躍した飯田出身者たちの伝記を収めたものです。描かれているのは、昭和29年春の甲子園、全国高校野球選抜大会に優勝した飯田長姫高校野球部の活躍から、優勝監督の蜂谷富雄、その長姫高校定時制から東京大学へ進学し、朝日新聞社長となった松下宗之。郷土誌『伊那』を戦後に復刊した原田島村と原田を支えた貞夫人。戦前に地方出版の先駆けとして太く短い人生を生きた山村書院の山村正夫。塩澤氏と同じ竜丘出身で、戦後に東京で新聞「東京タイムズ」を創刊した岡村二一と雑誌「ロマンス」を創刊した熊谷寛。終戦直後の塩不足を解消するために自分たちで製塩事業をはじめた会地村青年団。裸一貫から木下工務店を起こし、一大ハウスメーカーとした木下長志。地元出身学生への奨学金や、時計塔の寄附などふるさと飯田へ常に思いを寄せておられた木下氏は、今年1月に他界されました。

平成も終わりが近づき、昭和がますます遠ざかる今日、おすすめしたい一冊です。


 

『りんご並木の街いいだ』

『りんご並木の街いいだ』(別ウインドウで開く)

塩澤実信/著 南信州新聞社 1997年1月


塩澤氏がふるさと飯田にテーマを絞ってまとめた最初の本。昭和22年の大火のあと、美しい町を作りたいと願った東中の生徒たちによって植えられたりんご並木のエピソードから始まり、戦時中に医学生として飯田へ疎開していた作家、山田風太郎とは週刊誌の編集者になってからの思い出が記されています。疎開といえば、評論家大宅壮一も当時小学生だった一人息子が飯田へ疎開しており、息子に会うために飯田を訪れていたことなども語られています。この他にも、喬木村出身で戦前に関脇まで昇進した力士、高登の活躍も相撲評論家として詳しくふれています。

また、「飯田出版人・血脈の証明」と題した山村書院の山村正夫と、その息子で後に理論社の社長を務めた山村光司に関する伝記は、平安堂書店の創業者平野正祐との交流や、郷土出身の文学者椋鳩十の全集が理論社から刊行されることなども記されており、飯田の人にはぜひ読んでいただきたいところです。



よむとす

「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。

飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。