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よむとす No.178 「読書」というもの

[2018年6月15日]

ID:561

「読書」というもの

鼎図書館 関口 真紀


私たちは本との出合いにより支えられたり助けられたりすることがあります。本を読むこと、読書とは、私たちとってどのようなものなのでしょうか。ご紹介する次の3冊の本から考えてみたいと思います。

『池上彰特別授業『君たちはどう生きるか』』

『君たちはどう生きるか』がブームになっていますが、吉野源三郎が著した原作の出版は1937年、昭和12年です。現在に生きる私たちが読んでも何かしら惹き付けられるものがある作品です。

ご紹介する本は、池上彰氏が2017年にある中学校で『君たちはどう生きるか』を題材に特別授業を行った記録です。池上氏は『君たちはどう生きるか』が80年間も読み継がれてきた理由として、「読むたびに新たな発見」があり、「時代が変わっても読む人の心を動かし、また読みたい、ほかの人にも読んでほしいと思えるような作品だからこそ「古典」としていまに残っている」と言っています。そして本を読むことについて「ただ読むだけではダメ、…何より大切なことは、読んだうえで、自分なりに考えてみること」と最初の方で言い、後半では読み方を深めるスキルとして読書会でほかの人の意見を聞いて話し合ったあとにもう一度読み返すと最初とは違う印象を受けたり読み方がどんどん深くなる、本というのはそのようにして読むもの、と言っています。

全部の本が池上氏の言うようにして読むものでもないと思いますが、深く読んだ本があるということは生きていく強みになる素敵なことだと思います。最後に池上氏はどう生きるかそれぞれが考えることが大事で、そのために「たくさんのよい本と出合い、実り豊かな読書体験を積んでいってほしい」と生徒に呼びかけているのが印象的です。


『読書雑記』

『読書雑記』(別ウインドウで開く)

松澤 太郎/著 南信州新聞社 1997年6月

松澤太郎氏のエッセイは、あたたかみがあり面白く読むことができます。何冊か本が出版されていますが、この本は著者が支え続けた飯伊婦人文庫が刊行している『読書についての文集』(別ウインドウで開く)に寄稿した文章や飯伊婦人文庫の前身団体飯田婦人文庫の文集『かざこし』(別ウインドウで開く)に寄稿した文章をまとめて本にしたものです。著者が尊敬する会津八一のことや河上肇や原鼎のことなど記されていて興味深いのですが、著者の読書論が記されているのでご紹介します。それは「読書というもの」というタイトルで綴られています。

「読書というものは、たとえて言うならば、裾野を長くひいた高い山への登山のようなものだ」と登山になぞらえています。どこからでも登りはじめることはできるが、なかなか頂上を極めることは難しい、しかし、努力してだんだんと登って行くと、さらに高く登ってみようという意欲が湧く、知識もひとつ身につけると連鎖して次の新しい知識への意欲をかき立てて、読書の領域と深さが拡がって行く、ほんとうの山登りは決して山を軽く見ないように読書というものは拡げれば拡げるほど、奥が深くなり自分の小ささがはっきりして謙虚な気持ちにならざるを得ない、このような境地に立ち至った人こそが真の読書人というものだ、と。

読むこと、知ることとは果てしないものなのだと教えられました。


『みんなとだから読めた!~聞き書きによる飯田下伊那地方の読書会の歴史~』

この本は、飯伊婦人文庫が、読書とは何か読書会とは何かを求めて、飯田下伊那地域にある読書会から2年間かけて聞き書きを行った記録と、それによって見えてきた読書と人間との関わりが記された内容的にズシリと重みのある本です。そして私たちの地域の貴重な読書の歴史でもあります。この本の中では、ひとつひとつの読書会について出来た経緯や会のすすめ方、参加している人の感想を紹介し、人は百人百様、人のライフ・ヒストリーと同じようにひとつとして同じ読書会はないこと、長く続いている読書会は文学の名作を読んでいること、がわかってきたと言っています。また、「読書は人間の根幹に関わる重要なもの」であり、読書はひとりで読むものと言われているが、本来はみんなで読むものであったと見えてきたこと、みんなと声に出して読むことで、ひとりの理解より幅が広がり難解な古典も勉強できたこと上げています。

人は誰でもいつの時代でも知りたいという思いを持っています。昔の地域の女性たちの知への希求を、読書会が満たす役割を果たしてきたこと、そして読書会が積み重ねてきた学びの在り方は、現在において注目すべきたいへん重要なものであること、をこの本は教えてくれます。

みんなで読むから気づく新たな視点、話し合うことで深まる理解、そして読書会で得られる人間関係、集まって話すことが楽しくて楽しくてと綴られているのを目にしたときには、羨ましくもありました。

この本をつくっていた当時まだ70もの読書会が残っていたそうですが、だんだんに減っているそうです。飯伊婦人文庫は、「この読書の地下水脈を消滅させないように…未来にまで流れ続けるように、力を合わせて歩んでいく」と述べており、その強い決意には頭が下がります。

飯伊婦人文庫の出版物は、他に毎年刊行しておりすでに56号にもなる『読書についての文集』(別ウインドウで開く)と飯伊婦人文庫40年の歩みを記した『みんなで読もう 飯伊婦人文庫40年史』(別ウインドウで開く)、飯伊婦人文庫に関わる女性たちを聞き書きした『つながり ~聞き書き・女性70人の読書と人生~』(別ウインドウで開く)があります。あわせてご覧ください。

よむとす

「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。

飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。