中央図書館 坂 元香
好きなことだけをして生きていければなぁ~なんて、思うだけなら簡単です。が、実際にそれだけをして生きていくのは難しいことですよね。好きなこと(=ひとつのことと仮定して)を最後までやり続ける忍耐力や責任感、さらには好きなことのために嫌なことだってしないといけない可能性もあります。だからこそ、それを成しえた人は理解しがたいのになぜか魅力的です。
内田麻理香/著 講談社 2007年12月
天才科学者と言われてどんな人を思い浮かべますか?ニュートン?ダーウィン?アインシュタイン?では、彼らはどんな人物かと聞かれたら?「物理学者」「自然科学者」「理論物理学者」と答える人が多いでしょう。こちらの本は、大きな業績をあげた天才科学者16人を彼らの人間的な側面に焦点を当てて紹介しています。変人奇人なエピソード、遊び人な一面、イケメンかどうか!などを女性目線の軽快な文章で科学者たちの人生を掘り下げます!
私が気になったのは、昆虫の行動研究の先駆者であるアンリ・ファーブル。勤勉で努力家。しかし、神経質で時計の音さえも気になる性格だったようです。そんなファーブルは、カエルの大合唱や鳥の鳴き声に腹を立て、散弾銃をぶっ放して退治をしたエピソードが残っているそうです。虫好きの優しい人かと思ったら期待を大きく裏切られました。そんなちょっと変わった科学者たちをきっかけにして、彼らの研究成果にも目を向けてみようかなと思える内容です。
筒井康隆/著 新潮社 2014年1月
日本のSF御三家と呼ばれている筒井康隆の作品です。旅人のラゴスが旅をするのは、人々が超能力を獲得した世界。北から南へ、長く危険な旅を続けます。途中、集団移転をする一族や、壁をすり抜ける芸人、巨大な蛇が闊歩する町、―そんなSF要素も魅力ですが、なによりも主人公のラゴスが素敵なのです。正直で良い人間であると周囲に感じ取らせてしまう人柄、そして目的のために危険をかえりみない勇敢さ!そう、ラゴスが旅を続けるのには確固とした目的があり、それは物語の中盤で明かされます。物語の初め、ラゴスの一人称は「おれ」ですが、だんだんと「わたし」に変わっていきます。それだけの長い長い時間をかけて旅をしてラゴスが求めているものとは?
アガサ・クリスティー/著 中村妙子/訳 早川書房 2004年3月
こちらは、探偵も出てこないし、人も死なない、非ミステリーのアガサ・クリスティーです。主人公のジェーンは、自分の理想とする家庭を築き上げたことに誇りを持って生きていました。しかし、海外からイギリスへ帰る途中に砂漠に囲まれた見知らぬ土地で足止めをされます。することもなく、ひたすらに自分と向き合い続ける。そのうちに、夫や子どもを正しく導いてきた自分を「よき妻」「よき母」だと信じて疑わなかった彼女が、自身の人生や夫、子どもとの関係に疑問を抱き始めます――読み進めていくうちにだんだんと家族の「本当の姿」が見えます。自己満足に陥りがちで独善的な彼女の結末は…?家族と自分の関係や、私は私を「正しく認識できている」のか考えさせられる作品です。
「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。
飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。