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よむとす No.318 読み解く力

[2024年5月1日]

ID:1109

読み解く力

上郷図書館  矢澤 恵

「For sale: baby shoes, never worn」(売ります。赤ん坊の靴。未使用)

これは、世界で一番短い小説といわれている一文です。ヘミングウェイが書いたとも(諸説あり)。このたった6単語の文章からどんな情景を想像しますか。赤ちゃんの靴を売る…誰が?どうして? 未使用の靴ってどういう状況?
「行間を読む」という言葉がありますが、文章を読むということは、文字の意味するところを読むだけでなく、そこに書かれていない背景や感情も想像して読み取ることです。だからこそ読解力や想像力が必要で、そしてまた、いい文章はそれらの力を育ててもくれます。

『水上バス浅草行き』

『水上バス浅草行き』(別ウインドウで開く)
岡本 真帆/著 ナナロク社 2022年3月

日本が世界に誇る短い文学として、俳句や短歌があります。そして今、本だけでなくSNSでも短歌がブームになっているそうです。短い文章を発信するSNSと短歌は相性がいいのでしょうか。

「ほんとうにあたしでいいの?ずぼらだし、傘もこんなにたくさんあるし」という短歌がSNSで話題になりました(いわゆるバズった)。上の句はそのままで、下の句をアレンジしてそれぞれの「ずぼらエピソード」を詠み、大喜利状態になったというニュースを見て、自分だったらどんな下の句を付けるかなぁと考えてみました。ずぼらエピソードはたくさんあっても、7・7文字にはうまくまとまりませんでしたが…。その短歌が載っているのがこの本です。
「あるある」と思ってしまう日常の中の出来事や、覚えのある感情が31文字に凝縮されています。たった31文字の表現に楽しくなったり、切なくなったり。作者の岡本さんは短歌について「(解釈は)読み手の数だけ存在する」と別の本で語っています。
さらっと読んではもったいない。背景や感情に思いを馳せ、ひとつひとつの歌をゆっくりゆっくり味わいたい歌集です。もうひとつ、ほっこりした歌を紹介します。呼んだ「自分」と呼ばれた「きみ」の関係性が素敵だなと思った歌です。

間違えて犬の名で呼ぶ間違えて呼ばれたきみがわんと答える

『13歳からの読解力』

『13歳からの読解力』(別ウインドウで開く)
山口 謠司/著 PHP研究所 2020年11月

文学の文章を読み解くことを取り上げてみましたが、では文章をより深く理解するとはどういうことでしょう。最近、小中学生の学力とともに「読解力」も話題になります。この本は、そもそも読解力ってどんな力? なぜ大切なの? どうすれば読解力が身につくの?という疑問に答えてくれます。著者の専門は文献学。古今東西の膨大な文献を読み解いてきた研究者です。
著者は、「読解力」とは多くの知識を学ぶ基礎となる力であり、ただ文章を読むためだけでなく、人と人との関わりの中でこそ生かされるものと言います。文章を読み解いて、考えて、アウトプットする。そうして得た読解力は、人生という果てしない航海の羅針盤であり、生きる力になるとも。
中学生でもわかりやすいやさしい文章で、具体的でコンパクトにまとまっています。杜甫から新海誠までたくさんの文例が引かれ、大人の方もすぐに実践できる内容が満載の本です。


よむとす

「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。

飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。