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よむとす No.282 「越境」の文学にふれてみる

[2022年10月15日]

ID:950

「越境」の文学にふれてみる

上郷図書館 遠山 佳代

母語ではない言語で創作する作家たちの文学を「越境文学」と言います。私は大学時代にリービ英雄さんの『星条旗の聞こえない部屋』(別ウインドウで開く)に出会い、「越境」の文学のおもしろさ、奥深さを知りました。普段当たり前に使っている日本語ですが、それを外側から見たとき、また違った一面が見られるかもしれません。

『日本語を書く部屋』

『日本語を書く部屋』(別ウインドウで開く)

リービ英雄/著 岩波書店 2001年1月

リービ英雄さんは、英語が母国語でありながら日本語で小説を書いている作家です。アメリカ生まれで、少年時代は台湾、香港で過ごし、1967年に日本に移り住み、その後は日米を行き来していた方です。日本語で小説を書いているほか、万葉集の英訳などもされています。
この本は、著者の体験をもとに、日本語や日本文学について書かれたエッセイです。「日本語は美しいから、ぼくも日本語で書きたくなった」と語る著者は、日本語の「所有権」を常に突きつけられてきたと言います。外国人が日本語を話すと、つい「日本語お上手ですね」と声をかけてしまう日本人について、無意識のうちに「内側」には入らせないようにしている、と。
自身のデビュー作『星条旗の聞こえない部屋』(別ウインドウで開く)をはじめ、いろいろな「越境」の作品について書かれていて、どの作品も読んでみたくなります。

『鴨川ランナー』

『鴨川ランナー』(別ウインドウで開く)

グレゴリー・ケズナジャット/著 講談社 2021年10月

こちらもアメリカ生まれの著者が日本語で書いた作品です。
旅行で訪れた京都の風景に、まるで御伽噺のようだと感動し、「何も知らない部外者ではなく、ちゃんと中へ入る資格をもつ者として、あの世界を訪れたい」と、日本語を勉強し、京都に住み始めた青年の日常を描いています。日本の人々から向けられる「外国人」を観察するような視線への困惑、周囲からの扱いに対する違和感や不満が描かれます。
そこで暮らすことで「理想郷」ではなくなってしまった京都に、それでも「それなりの美しさ」を感じる主人公。描写が丁寧なので、主人公の疎外感や切なさに共感しながら読み進めることができます。

『ぼくは翻訳についてこう考えています-柴田元幸の意見100-』

少し視点を変えて、翻訳についての本を紹介します。言語の境界を行き来する翻訳家の方々はどんなことを考えて仕事をされているのでしょうか。翻訳家の柴田元幸さんの過去の発言から100個選び出してまとめた本で、とても読みやすい本です。柴田さんの翻訳に対する姿勢などがユーモラスに書かれていて、くすっと笑ってしまうところもあります。
「ここに壁があってそこに一人しか乗れない踏み台がある。壁の向こうの庭で何か面白いことが起きていて、一人が登って下の子どもたちに向かって壁の向こうで何が起きているかを報告する」というのが翻訳することの視覚的イメージだそうです。その面白さを正確に伝えるのも難しいことだと思いますが、楽しんで翻訳をしていらっしゃるように感じます。

よむとす

「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。

飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。