上郷図書館 玉置 郁子
私たちの身近にある小さな自然や草花をいかし、さまざまな小さな世界を創作している本を紹介します。どれも、作品と物語、そして、その作り方などが中心のものです。今はSNSなどで同じように写真などを見て楽しめる時代なのかもしれませんが、本を開いてゆったりと、気にいった作品を繰り返し見たり、毎回新しい発見をしながら、それぞれの温かい物語を感じるのもおすすめです。
リト@葉っぱ切り絵/著 講談社 2021年5月
これは、葉っぱの切り絵の作品集です。8つのテーマにそって葉っぱを舞台にした切り絵の物語がひろがります。最後にその作り方も出ていますが、本当に繊細な作業で、1枚の葉っぱの中で全てがつながるように切り抜いていることなどがわかり、改めて作品を見直して感動を深めました。
作者は、この創作の始まりは、自身の「ADHD(注意欠陥・多動性障害)」という言葉との出会いと、そのことを前向きにとらえたことだったといっています。「ADHD」の特徴でもある集中力のすごさが、細かい技術を生み、私たちに感動を与えてくれているのかもしれませんが、それ以上に、やはり、作者の優しさと想像力が、1枚の葉っぱの上の温かい表情と物語にあふれていて、見る人を幸せな気持ちにしてくれるのだと思います。読むたびに新しい発見があり、心癒される一冊です。
相澤 悦子/著 山と渓谷社 2018年7月
庭先や道端でよく見かける四季折々の小さな草花を使った、ちょっと素敵な“草花あそび”の本です。
作者は葉っぱを手に取った時、まず、葉脈に目を凝らし、葉脈の声をききます。そして、よくよく見ていると、1枚1枚違った個性の作品が目に浮かんできて、ユーモラスな葉っぱの虫や動物ができるのだそうです。「フヨウのクモとクモの巣」というのはまさにそれで、フヨウの葉の葉脈に沿ってちぎるだけでクモの巣になります。さらに、つぼみを見ているとクモに見えてきて、クモを作ってしまったという想像力に感心しました。その他に「オシロイバナの女の子」、「ロウバイのカナリア」、「スズカケの実のハリネズミ」などかわいらしくて楽しくなる作品が並んでいます。作り方も、素敵なイラストでていねいに書かれていて、小さな世界を探しにちょっと散歩もいいかな…と思わせてくれます。
小林 南水子/著 柏書房 2017年7月
「生け花」ならぬ「生け雑草」とはなんだろう。そう思って手にしたのがこの本です。ページを開くと身近な草花がさりげなく生けてある写真がありました。
道端や空き地に逞しく群生していたり、可憐に、さまざまな色合いで咲いている草花を採り、水に挿して365日写真に撮る生活を続けようと決めたことが、「生け雑草」を始めたきっかけとのことです。ただ、「ムリをしないのが生け雑草」ともいっています。季節毎の「生け雑草」はきちんとした器に生けられたものもあれば、コンビーフの缶や、シューマイに付いてくる醤油さし、ちょっとおしゃれめのビール瓶などに生けられていたりするものもあります。そして、桜の花びらだけを浮かべたり、枯れ葉や木の実だけがあったりすることからも、さりげなく楽しむ様子が伝わってきます。玄関や部屋の片隅にちょっとした自分の世界が作れたら楽しいですね。
「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。
飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。