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よむとす No.268 その日、その時

[2022年3月15日]

ID:906

その日、その時

中央図書館 田中 文子

 

学生時代の友人や先輩と、10年ぶりに連絡を取り、オンラインでよく話すようになりました。「当時そんなことを思っていたのか!」と今だから話せる暴露話に花が咲きます。思い返せば、よくもそんなに一緒にいれたものだと思うほど、四六時中共に過ごした仲間たち。今は疎遠になった人のほうが多いですが、何かしらの縁があって、その日その時、一緒にいたことは確かです。

みなさんは、「今頃どうしているかなあ…」と思い浮かべる人はいますか?


『夜が明ける』

『夜が明ける』(別ウインドウで開く)

西 加奈子/著 2021年10月 新潮社

主人公「俺」と友人のアキの物語。2人は高校で出会い、ある映画をきっかけに打ち解けます。身長191cmで巨体のアキは、生活を切り詰めた母子家庭で育ち、暗黒の中学時代を過ごしますが、高校では心根の優しさから人気者に。学校へ行けばあいつがいる、互いにそう思って3年を過ごし、卒業後、テレビ局ADと劇団アルバイトと、別々の道へ進みます。しかし、待っていたのは肉体的にも精神的にも苦しい世界。もがきながら、地を這うような日々が続きます。その後、33歳まで2人の道が重なることはなく、過労で倒れた主人公の元に、一通の手紙が届き…。

ページをめくるほどに重くのしかかってくるものがあります。けれど、2人が隣同士で歩んでいた頃の希望がずっとそばにあり、最後まで放り出さずに読めて良かった1冊でした。


『図書室』

『図書室』(別ウインドウで開く)

岸 政彦/著 2019年9月 新潮社

舞台は、滋賀・京都・大阪を流れる淀川沿い。主人公の女性が小学生の頃、公民館図書室で出会ったのはとある少年。はじめはお互い様子をうかがっていたのが、ふと堰を切ったように言葉があふれ、仲良くなっていきます。面白かった本のこと、公民館にいる大人たちのこと(みんないつも寝ている)、そして、“世界の滅亡”(!)のこと。「明日、世界が滅亡したら?」2人はいたって真剣に話し合い、ついにスーパーへ缶詰を買い込みに出かけます。

子どもならではの大阪弁の突っ込み合い、夢中になって日が暮れたときの感覚、河川敷の長い道のり、突然終わりを迎える子どもだけの時間…胸がいっぱいになる短篇でした。私自身、関西で生まれ、淀川沿いで育った人間で、手に取った偶然に感謝した本です。子ども時代“一緒に過ごしたあの子”の思い出がある方は、ぜひ。


『愛と家族を探して』

『愛と家族を探して』(別ウインドウで開く)

佐々木 ののか/著 2020年7月 亜紀書房

社会の”正規ルート”とは別の「家族」を実現するためには、どんな方法があるのか?ライターである作者が「家族と性愛」をテーマに行ったインタビュー集です。作者自身、自分の結婚観や家族観が他人に受け入れられないことから始めた取材で、自らの深層に潜るための仕事だと語っています。

選択的シングルマザー、性的に拘束し合わない契約結婚、精子バンクを利用した出産。パートナーに求めるものはさまざまです。それを他人に語っても相手にされず、でも諦めず、を繰り返した末に理解し合えた人とそれぞれ家族を築いています。インタビューの後、新しい形に変わっていった家族もあります。妥協せずに居心地の良い形を模索する、7つの愛の形です。


よむとす

「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。

飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。