中央図書館 小森信祐
「イップス【yips】―これまでできていた運動動作が心理的原因でできなくなる障害。もとはゴルフでパットが急に乱れることを指したが、現在は他のスポーツにもいう。」(『広辞苑』第7版 新村 出/編 岩波書店 より)
例えばスポーツをしているときに、今まで何も考えずにできていた動作が突然できなくなってしまい、「あれ?おかしいな。次はちゃんとやらないと。」などと考えても、やればやるほど同じ失敗を繰り返して悩んでしまう。皆さんはそういった経験はあるでしょうか。
イップスは一度かかるとなかなか元に戻ることが難しく、イップスが原因でスポーツ選手になる夢をあきらめる、また休日のゴルフや楽器演奏などこれまで楽しんできたことを止めたり断ったりして自ら遠ざけてしまう、というほどの深刻な状態に陥るケースもあるそうです。今回は図書館にあるイップスの本を紹介します。
『イップス スポーツ選手を悩ます謎の症状に挑む』(別ウインドウで開く)
石原 心/著 内田 直/監修 大修館書店 2017年2月
イップスは、練習不足、技術不足、メンタルの弱い人よりも、競技レベルが高い、競技歴の長い人が、何かの「きっかけ」によりスイッチが入って起きてしまうことが多いそうです。この本では、実話をもとにした事例を紹介し、イップスがどのようにして起こるのか、どんな症状かが詳しく解説され、著者がイップスの症状改善に取り組む中で実際に効果が高かった治療方法が紹介されています。
この他、イップスに関わる海外での科学的な研究の紹介もされています。その中には、後述するイップスとジストニアとの関連についての研究もあります。これからも多くの関係者による研究が進み、イップスに悩むアスリート達の問題解決につながっていくことが期待されます。
『そのふるえ・イップス 心因性ではありません』(別ウインドウで開く)
平 孝臣、堀澤 士朗/著 法研 2021年8月
本の冒頭で紹介されるイップスの例には、スポーツに限らずピアノやバイオリンなどの楽器、声楽といった音楽家のイップスもあります。突然腕や足や手が思うように動かせない、あるいは声が出せなくなる、という症状が現れ、それぞれの動作が以前のようにできなくなるというものです。
イップスに関して、世間一般には「メンタルの問題」として捉えられる傾向がありますが、著者はそうした「心因性」の症状ではなく、その大半は「ジストニア」という状態にあたるものだとしています。筋肉の異常な収縮によって思うように動けなくなるジストニア。イップスはジストニアのうち体のごく一部にだけ生じる「局所性ジストニア」ととらえるべきだ、としています。
本書ではそのジストニアやふるえのしくみ、体の動きや運動をもたらす脳と体のしくみ、制御できなくなる原因、そしてイップスの治し方、つきあい方について解説され、最後には脳の手術について詳しい説明がされています。
イップスになった、またはそのような症状が出たと悩んでいる人はきっと多いのではないかと思います(そういう私も、野球をやっていて似たような思いをしたことがあります。イップスなのかどうかわかりませんが…)。その悩んでいる人に対してメンタルの部分のみを指摘してさらに悩ませ追い詰めることのないように、私たち自身もイップスの仕組みや症状を理解してアプローチしていくことが大事だと感じました。
「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。
飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。