上郷図書館 玉置 郁子
日々、厳しいニュースの流れる中、「ストレス」という言葉がより多く使われるようになっています。そんな今、張りつめた気持ちを「ふーっ」と抜きたくなる瞬間が誰にでもあると思います。そういう時は、気持ちをいつもと違う方向へ向かわせることが大切だそうです。これらの本がそんな時の何かになれば良いと思います。
私がこの著者を知ったのは 『Michi みち』(別ウインドウで開く) という画集とも思えるような厚みのある本を手にした時でした。『Michi』は表紙に女の子の背中、裏表紙に男の子の背中があって、この2人がそれぞれ向かい合うように、いくつもの不思議な街を歩いて行くものです。ページをめくるたびにあらわれる幻想的な街は、それぞれにインパクトのある色使いで、なおかつ、とても細かく描かれていて、見るたびに新しい発見と心地よい想像が広がるものでした。
そしてこれは『の』といういたってシンプルなタイトルの本です。何かの言葉についたり、“含み”みたいなものを表現したり、いわゆる所有格といわれる、あの「の」です。やはり、大いに気になってページを開くと「わたしの」「お気に入りのコートの」という文章で始まり、王様のベッドが大海原になったり、レッサーパンダやハリネズミ、小人や赤鬼といろいろ登場します。そしてそれが、「の」というバトンでつながって、本当に予想外の世界が続いていきます。読み終えた後、あらためてじっくりと細部まで絵を楽しみたくなるのもこの本の魅力です。また、読んで絵を楽しむだけでなく誰かと一緒に「の」で言葉を繋げて遊んでみるのも楽しいのではないでしょうか。
ちなみに、伊坂幸太郎の新刊 『逆ソクラテス』(別ウインドウで開く) の表紙はjunaidaが描いたものでこちらも素敵です。
これは、著者木村セツさんの制作した新聞ちぎり絵の作品とエッセイでつづられている本です。ご主人が亡くなる少し前に言った「いくつになっても勉強せなあかん。」という言葉が心に残ったセツさんは90歳にして新聞ちぎり絵を始めたといいます。セツさんいわく、人生最初の方にいい時代はひとつも無かったとのこと。趣味もなく、ずっと働いてきたそうです。そんなセツさんですが、今では作品を作ることが楽しいし、生きがいになっていると言います。そして、1つの作品はだいたい6~7時間でできるのですが、作り上げるのに日をまたぐのが嫌で、その日のうちに仕上げ、見届けたいという思いがあり、すごい集中力で作品を作り上げるそうです。それまで絵を描くことも苦手だったという人が作ったとは思えないちぎり絵は、素朴で温かいものばかりで人柄が想像できます。そして、ご本人が「貧しい材料でやってます」と言うように材料も身近なものでできていて、作る過程もあるのでぜひ「創造」してみるのもよいかもしれません。私は、その道具の写真に写っている“フエキのどうぶつのり”が気になり懐かしい気持ちになったのですが…。とにかく作品の全体を通して心和む1冊です。
「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。
飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。