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よむとす No.224 世の中は、偶然に満ちている

[2020年5月15日]

ID:750

世の中は、偶然に満ちている

中央図書館 瀧本明子

 

図書館の敷地に植えてあったローズマリーがもしゃもしゃになってしまったので、刈り込んで余った枝を家に持って帰りバケツに突っ込んでおいた。その晩娘から「ハーブの寄せ植えした」と写真付きのラインがあった。私は日頃ほとんどハーブとは無縁の生活をしているのに、同じ日に母娘でハーブに関わるとは、不思議な偶然である。


『世の中は偶然に満ちている』

『世の中は偶然に満ちている』(別ウインドウで開く)

赤瀬川 原平/著 赤瀬川 尚子/編集 筑摩書房 2015年10月


赤瀬川原平という人はいつも、日常の中にこんなに面白いものがたくさんあるよということを教えてくれる。芸術や漫画では裁判沙汰になったり出版停止になったりということもあったが、幼いころは引っ込み思案で、中学2年生までおねしょが治らずとても悩んでいたそうだ。

この本は2014年に赤瀬川氏が亡くなった後、奥様によって発見された日記を元に出版された。四分の三は、氏が記録した1977年から2010年までの「偶然日記」で、そもそも14年間もそんな記録をつけていたというのが驚きである。○月○日(曜日)本屋でなんだか壊れそうな棚だなと思ってみていたら本当に崩れて雑誌が落ちてきた。その帰りに果物屋に寄ったらオレンジの山があって崩れそうだなと思ったら突然崩れて転がり落ちた。とか、○月○日(曜日)母が亡くなった日、亡くなる前に玄関の真鍮の鍵がポキッと折れた、とか。偶然の拾いものでは、お金やモンブランの万年筆、ダイヤモンド!まで拾ってしまい、次はライカでも拾いたい、でも期待したら偶然ではなくなるなどと言っている。

偶然も集めれば必然を感じるもので、外でやたらに知り合いに会うのも、そもそもいろんな人と知り合いだからではなかろうか。

心にゆとりがないと偶然がピカッと光っても気づかないらしい。偶然を数多くみつける人のほうが、人生楽しいのではなかろうか。

『路上観察』(別ウインドウで開く)『中山道俳句でぶらぶら』(別ウインドウで開く)なども偶然を見つける練習にどうぞ。


『新装版 戦中派不戦日記』

『新装版 戦中派不戦日記』(別ウインドウで開く)

山田 風太郎/著 講談社 2002年12月   (元版 番町書房 1971年)


ある方が、昔上郷のたつ坂の上のあたりに「武田の末孫(ばっそん)」という人がいたが、そのことについての資料はないかと図書館に探しにみえた。ご高齢の方の中にはご存じの方もあるかと思うが、自分は武田信玄の末裔であると言い、いつも軍服を着ていて、どこかで何かの集まりがあると出かけて行っては一緒に写真に写ったりしていたらしい。ある時『戦中派不戦日記』を読み返していると、「武田の末孫」の看板を見かけたことが書かれていて、こんなところにも書いてある!と驚いた。

先日の南信州新聞の日言でも紹介されていたが、『戦中派不戦日記』は、「忍法帖」シリーズなどで知られる作家・山田風太郎による昭和20年という激動の一年間の日記である。医学生だった一人の青年が戦時下、何を見て、何を感じ考えていたのか、克明に綴られている。

6月には飯田に疎開し、この飯田の地で国について戦争について友と語り合い、学問をし、毎日驚くべき量の本を読んでいる。大平街道に炭の運搬に行ったこと、丸山国民学校で働く女学生を見たこと、建物疎開のことなど、疎開してきた青年の目に映る戦中の飯田がある。終戦の日もこの飯田で迎え、「玉音放送」を大安食堂で「腸がちぎれる思いで」聞いている。

山田青年の関心事は国の行く末であって、飯田の地にはそれほど興味を持っていないようであるが、随所にみられる風景の描写は、私たちの飯田はこれほど美しいところであったか、と思わせてくれる。


『フランクリンの果実』

『フランクリンの果実』(別ウインドウで開く)

アーウィン・ユキコ/著 文藝春秋 1988年5月


飯田出身の後藤三右衛門は、天保の改革の際、幕府の御金改役を勤め水野忠邦の信頼も得ていたが、政変に巻き込まれ死罪となった。三右衛門の姪いきは、幼少の頃家族と飯田から江戸へ移ったが、開港となった横浜の港でアメリカ人のロバート・アルウィンに出会い、開国後に日本で最初に外国人と結婚した日本人女性となった。いきは、たまたま手伝いに行っていた場所で外国人客見たさの好奇心でお茶出しを引き受け、アルウィンに見染められたのだった。

これらの出来事を紹介した本に『偶然こそは神の意志』(別ウインドウで開く) (みやじま しげる著)がある。二人の娘で日本での幼児教育に貢献したベラ・アルウィンは「偶然こそは、神の意志」と言ったそうだ。

二人の国際結婚がその後子孫にどのような苦しみ、また喜びを与えたのか。ベンジャミン・フランクリンの末裔にあたるロバートといきの孫、アーウィン・ユキコ著『フランクリンの果実』には、波乱万丈のその生涯が描かれている。



 

本棚の間をぶらぶら歩き、なんだかおもしろそうな一冊の本を見つける、そんな偶然の出会いを図書館でしていただけたらと思います。


よむとす

「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。

飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。