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よむとす No.219 とりつく とりつかれる

[2020年3月1日]

ID:732

とりつく とりつかれる

中央図書館 遠山 百合香

 

ホラー映画を見ることが出来ない怖がりな私なので、怨霊・魔物などが人に乗り移るような怖い本は苦手です。今回は、とりつくと言っても怖くない、趣味や夢・女性のことが頭から離れず、それに操られてとりつかれてしまった男の話と、死後にとりつく話など、小説3冊を紹介します。


『トリツカレ男』

『トリツカレ男』(別ウインドウで開く)

いしい しんじ/著 ビリケン出版 2001年10月


街の人たちから「トリツカレ男」と呼ばれているジュゼッペは、いろいろなものにとりつかれてしまいます。オペラに三段跳び、探偵、ハツカネズミの飼育など。何かに夢中になると、もう他のことには一切手がつかないほどに。

ある日、ジュゼッペは風船売りの無口な少女ペチカに出会い恋をしてしまったのです。私は、街の人から少し馬鹿にされているトリツカレ男のおかしな話かと初めは思って読んでいましたが、読むにつれてジュゼッペがペチカを思う気持ちが一途で純粋で心打たれました。これは恋の物語なのです。彼女の笑顔の中にある“くすみ”の理由を知り、ペチカが心から幸せになって欲しいと、あらゆる努力をします。ジュゼッペとペチカはどうなるのでしょう。

とりつかれたように何かに夢中になれるものがあるということは、すばらしいことだと思えるお話です。


『ピンザの島』

『ピンザの島』(別ウインドウで開く)

ドリアン助川/著 ポプラ社 2016年6月


「ピンザ」とはヤギの呼称で、この話は島のピンザの乳からチーズを作るという夢にとりつかれた男の話です。

貯水プールを設けるためにアルバイトとして島に来た涼介ですが、実は島に来た本当の目的は、亡くなった母が幾度も名前を口にした人物を探すため。でも、その人を探す方法もわからず、ただ毎日穴を掘り続けます。

そして、ハシさんという男性との出会いをきっかけに、涼介のチーズ作りが始まります。チーズ作りは、すんなりとはいかず、チーズの熟成に何度も失敗したり、島のタブーに触れ島の男たちの怒りをかってしまったり、あらゆる困難にぶつかります。ピンザを食べることがこの島では伝統であり、かわいがっていたピンザをつぶす場面では心が痛みました。

心に傷を負った涼介がチーズ作りに挑む中で、生き方への思いが変わっていきます。最後の場面で、チーズ作りに失敗し「一敗地に塗れた」涼介が、嵐の中に飛び込んでいきます。最後まであきらめなければ、いつかは光が見えてくる、夢を持った男の行動に感動を与えられた1冊です。


『とりつくしま』

『とりつくしま』(別ウインドウで開く)

東 直子/著 筑摩書房 2007年5月


死んだあと「とりつくしま係」が現れます。この「とりつくしま係」は、この世に未練があったり、死に納得いかなかったり、会いたい人がいる・・・そんな人たちにとりつくものを与えてくれます。魂の無いモノにとりつくことで現世に戻れるのです。この本は連作短篇集になっていて、夫のマグカップにとりつく妻の話や、母親の補聴器にとりつく娘、息子の野球のロージンバッグにとりつく母など、とりつくものもさまざまです。 

「名前」は、図書館員の小雪さんの名前になりたいといって、名札にとりついた男性の話です。この話にはドキッとしました。もしや自分の名札にも誰かとりついているのでは!と。「青いの」はママに会いたいと願う子どもの話で、涙が溢れてきました。

愛する人が自分のことを想い、生き続けているという事実を見守ることができる幸せがあっても、何も話すことが出来ず伝えることもできない、ただ見守るだけ。それはとても辛いことではないでしょうか。

 

自分だったら何にとりつくだろう。


よむとす

「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。

飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。