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よむとす No.154 ニュースの外側にいる人々の記録 2017年06月01日

[2017年6月1日]

ID:403

ニュースの外側にいる人々の記録

中央図書館 関口 真紀

近年世界情勢は不安定、不穏な空気に包まれています。私たちはニュースを見ることで情報を得ていますが、ニュースでは報道されない出来事は山のようにあり、ニュースのまわりにいる人々の姿はなかなか知ることができません。今回はニュースの外側にいる人々を記録した本をご紹介いたします。

『君とまた、あの場所へ シリア難民の明日』

著者は中東、アフリカ、東南アジアなどで貧困や難民の問題を中心に記録し続けているフォトジャーナリスト。シリアでは国民の半数が難民となっているそうです。2015年、シリアから逃れる途中だった3歳の男の子アイランくんがトルコの浜辺に息絶えて打ち上げられた写真が報道され、世界中の人々がシリアの惨状に関心を寄せました。しかし、その写真は男の子の家族の悲しみを癒すどころか傷つけてしまったのではないか、と著者は言います。

この本は、シリアから逃れ故郷へ帰る日を待つ人々の日常が記録されています。ヨルダンの難民キャンプで不安いっぱいながらも出産した女性、母親は亡くなり父親と離れ離れで暮らさなければならない女の子。戦火からは逃れたけれど厳しい生活に身を置いている人々を記録している著者。そんな著者のまわりでも、同業者の山本美香さんが銃弾で亡くなり、後藤健二さんがISに殺害されるといった衝撃的な事件がありました。それでも著者は取材を続けます。著者を取材に向かわせるものは何でしょうか。

著者は言います。「新しく起きたことを伝えるのが“ニュース”だとすれば、時が経ち根深くなった問題はすでに“ニュース”ではなくなり、伝えられる機会が減っていく」アイランくんの家族の悲しみが置き去りにされてしまったように、ニュースの外側で声を上げられない人々がいることを伝えたい、ジャーナリストとしての著者の信念と現地の人々の心に寄り添う姿勢は、私たちに現実を見せてくれるとともに人の優しさを教えてくれます。

『キルギスの誘拐結婚』

『キルギスの誘拐結婚』詳細情報のページはこちら(別ウインドウで開く)

林典子/著  日経ナショナルジオグラフィック社  2014年6月

この本はたいへん衝撃的な内容の本です。事実であるとは信じがたいのですが、事実であることをこの本が証明しています。中央アジア、キルギスに住んでいるクルグス人女性の約3割が誘拐結婚とのこと。誘拐結婚とは、男性が気に入った女性を無理やり家に連れ込み、親族ぐるみで女性を説得し、結婚させるというものです。現在は違法ですが昔からの慣習はなくならず、誘拐結婚は「親族間のもめ事」とされ、誘拐した男性が逮捕や起訴されることはほとんどないそうです。

この本にはどのように誘拐結婚が行われるのか、その様子が写真で生々しく記されています。ほとんどの女性たちは誘拐結婚を受入れます。どのような心境なのでしょうか、日常はどんな様子なのでしょうか。信じられないショッキングな事実と、受け入れ難い現実を受け入れた女性たちの覚悟をしっかりとご覧ください。

『信念の女(ひと)、ルシア・トポランスキー ホセ・ムヒカ夫人激動の人生』

ウルグアイ第40代大統領ホセ・ムヒカが2012年のリオ会議で行ったスピーチは、たいへんな衝撃となり「世界でもっとも貧しい大統領」として話題になりました。その妻ルシア・トポランスキーの生涯を追ったのがこの本です。裕福な家庭に生まれながらも政治運動や慈善活動に参加、ウルグアイの極佐武装組織「ツパマロス」に入りゲリラ活動に従事。2度の逮捕、13年の獄中生活の後、同士だったムヒカと結婚、国政に参加しムヒカを支える生活になります。このようにたいへん激動な人生を経験しているルシアの生き方には、社会の格差をなくしみんなと幸せを分かちたいという一貫した信念と、どんなことにもあきらめない強力な頑固さがあります。

ムヒカとは獄中に1回ラブレターが届き、1985年釈放されてすぐに一緒に暮らし始めますが、正式に結婚したのは2005年です。「世界でもっとも貧しい大統領」ホセ・ムヒカが有名になったその陰には、妻のルシア・トポランスキーの存在がありました。巻末には二人の写真とメッセージが掲載、私たちの生き方にアドバイスとエールを送ってくれており、勇気が湧いてきます。

よむとす

「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。

飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。