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よむとす No.140 うつくしい人びと 2016年11月01日

[2017年6月8日]

ID:111

うつくしい人びと

鼎図書館 北原 朋弥

「心が揺さぶられる」という感覚は、だれもが一度は経験したことがあると思います。さまざまなメディアで取り上げられ、話題となったものもありますが、今回はまさに心揺さぶられる、うつくしい人びとをご紹介します。

『SURI COLLECTION』

アフリカ・エチオピア南西部に暮らすスリ族を撮り下ろした、フォトグラファー・ヨシダナギの初の写真集。「世界一、ファッショナブルな民族」と評される彼らが身につけるのは、流行最先端のブランドでも最高級のジュエリーでもなく、色とりどりの野生花のリースや、樹木のクラウン、褐色の肌に押した葉柄のスタンプ――。
ファインダーを通してじっとこちらを見つめる彼らの眼差しに、まるで現実ではない、どこか別世界を見ているような気さえしてきます。日本のファッションとは違い、「スリ族のファッションは感情表現に近い」と著者は言います。
ページをめくると、鮮やかで、神々しい色という色の洪水に飲み込まれるよう。アフリカでは目に見える色が全く違う、色彩が深い、と聞いたことがありますが、まさにその違いを体験するようです。

『ヨシダ、裸でアフリカをゆく』

5歳でマサイ族に憧れ、アフリカ人になることを夢見た著者が、カメラを片手にアフリカに滞在したときのエピソードを、写真とともに紹介。個性あふれるガイドたち、「ハイ、マイフレンド!」の一声で友達になってしまう現地人、思いもよらない仕打ちやアクシデント(ホテルのエアコンからイグアナ……!)、まざまざと突きつけられる差別問題、そして少数民族を前に裸になるまで、まさに赤裸々に綴られています。決して楽しいばかりの滞在ではなく、ハッとさせられるシーンや理不尽な出来事も多いのに、どこかクスッと笑えてしまうのは、著者の魅力、また彼女のアフリカへの強い思いが伝わってくるからかもしれません。
アフリカと聞くと、行ったこともないのに「危ない」とか「治安が悪い」とか、「貧困」「HIV」などのネガティヴな面に注目しがち。けれど、この本を開くと、そんなネガティヴさはどこかへ吹き飛んで、アフリカに生きる人びとのまぶしい笑顔が浮かんできます。

『ヤノマミ』

奥アマゾンで1万年にわたり独自の文化と風習を守り続ける人々――ヤノマミ。文明社会とほとんど接触していない彼らの集落で、ディレクターの著者は百五十日間にわたる同居生活を始めます。167人が暮らす円形の共同住居「シャボノ」の一角にハンモックを吊るして夜を過ごし、狩りや畑作業に同行し、祭りをカメラに収め、女たちの出産の現場に立ち会います。
ヤノマミとは彼らの言葉で「人間」。外部の人間を「ナプ(人間以下)」と呼びます。しかし、ヤノマミの一人の少年は、著者の肌を何度も撫でた後、〈クレナハ(同じ)〉と言います。自分の肌と同じ、と。
私がヤノマミを知ったのは大学に入学したばかりの頃でしたが、それ以来、なぜか彼らは忘れることのできない存在になりました。何もかも剥き出しの彼らの生活を垣間見るうちに、身体の奥深くが、心がざわめき立ち、聞いたことのない「アハフー」という彼らの笑い声が耳にきこえる気がしてきます。

よむとす

「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。

飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。