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よむとす No.94 「会えてよかった。」 2014年12月01日

[2017年6月8日]

ID:73

「会えてよかった。」

上郷図書館 牧内睦子

人生の中で「会えてよかった。」と思える人や本との出会いが、だれにでもあるのではないでしょうか。偶然の出会いが人生に大きな影響を与えたり、思わぬ縁となってつながっていったり。それぞれの「出会い」には、それぞれの物語があるはずです。

『ひみつの王国―評伝 石井桃子―』

「石井桃子」なしには日本の児童文学を語れない。『ノンちゃん雲に乗る』(別ウインドウで開く)の著者で、『クマのプーさん』(別ウインドウで開く)『ピーターラビットのおはなし』(別ウインドウで開く)『100まんびきのねこ』(別ウインドウで開く)「うさこちゃん」(別ウインドウで開く)シリーズほか数々の外国作品を翻訳。『岩波少年文庫』『岩波子どもの本』等も手掛け、二百数十冊の子どもの本を世に送り出した作家・翻訳家であり、優秀な編集者だった石井桃子さん。この人がいなければ、日本の子どもたちはこのたくさんの本に出会うことができなかったでしょう。後に新聞記者となり、この本を書くことになる尾崎真理子さんもそのひとりです。
「名が残るのではなく、本が残ってくれればいい」と話していたという石井桃子は、自身について多くを語ってきませんでした。70歳に近づいた頃、幼い日々の記憶が鮮明に蘇ってきたと、『幼ものがたり』(別ウインドウで開く)を執筆。また87歳で発表した『幻の朱い実』(別ウインドウで開く)という自伝的長編小説には、誰もが驚嘆したといいます。
「あの『いしいももこ』と同じ人物なのだろうか。」序章の冒頭で著者はそう語り、「『幻の朱い実』を読み終えた時から、石井桃子の評伝を構想し始めたのかもしれない。」と振り返っています。そして、95歳の石井桃子に行った200時間というロングインタビューをたよりに、「秘密の王国」に足を踏み入れていきます。
菊池寛との出会いが彼女を編集者へと導き、犬養毅邸への出入りを契機に英語版『プーさん』と出会います。いくつもの幸運な出会いを得て、井伏鱒二・太宰治・岸田國士等々文壇に多くの人脈を持ち、文芸春秋社・新潮社・岩波書店に編集者として勤め、文学的才能にも恵まれながら、101歳で人生を閉じるまで独身を貫き、子どもと本のために生きた石井桃子の歴史から、日本の児童文学の軌跡も見えてきます。

『会えてよかった』『縁もたけなわ ぼくが編集者人生で出会った愉快な人たち』

この2冊はともに、著者が縁あって関わった「会えてよかった」人や「愉快な人たち」一人ひとりについて綴ったエッセイ集です。著者のお二人は、小学校の図工の先生と生徒の間柄とか。
『会えてよかった』(別ウインドウで開く)は皆さんご存知の、画家であり装丁家、絵本作家でもある安野光雅さんが、文字通り「会えてよかった」人々についてお書きになっています。女優さんや作家、芸術家、○○学者等々、安野さんの交友範囲は広く、それぞれの人との出会いやエピソードを通して安野さん自身の人柄が浮かびあがります。装丁と挿絵はもちろんご本人。画風にも通じる、好奇心旺盛な温かくて楽しい人という印象が伝わってきます。

松田哲夫さんといえば、筑摩書房からたくさんの本や雑誌を世に送り出し、最近では『中学生までに読んでおきたい日本文学』(全8巻)(別ウインドウで開く)『中学生までに読んでおきたい哲学』(全10巻)(別ウインドウで開く)を刊行、メディアでも活躍され、読書普及の先頭に立っていらっしゃる編集者で書評家。
『縁もたけなわ ぼくが編集者人生で出会った愉快な人たち』(別ウインドウで開く)では、最初に安野光雅先生が登場、イタズラ好きでユーモアがあり人気絶大だったと語られます。(ちなみに藤原正彦氏も松田さんの4つ先輩で、安野先生の授業を受けていたそうです。)こちらも錚々たる方々が次々と登場。装丁と挿絵は南伸坊さんです。全員に楽しい似顔絵が添えられていて、とにかくおもしろい。
ところでこのタイトル「縁(宴)もたけなわ」の後に続く言葉は「そろそろお開き」。著者曰く「考えてみれば、僕も66歳、そろそろ『お開き』の時間なのかもしれない・・・」と。

『物語ること、生きること』

『物語ること、生きること』詳細情報のページはこちら(別ウインドウで開く)

上橋菜穂子/著 瀧 晴巳/構成・文 講談社 2013年10月/発行

今春、国際アンデルセン賞を受賞された上橋奈緒子さんは、『精霊の守り人』(別ウインドウで開く)をはじめとする「守り人」シリーズや『獣の奏者』(別ウインドウで開く)等の著者であり、オーストラリアの先住民アボリジニの研究者で川村女子学園大学特任教授でもあります。
海外でも翻訳され、評価の高い『精霊の守り人』(別ウインドウで開く)は、NHKで綾瀬はるか主演による実写ドラマ化が決まっていますし、『獣の奏者』(別ウインドウで開く)はアニメ化でテレビ放映もされました。そんなファンタジー作品を書かれた「上橋菜穂子」という作家の生い立ちから現在までの道程を、インタビューという形で引き出して文章にしたのが、この『物語ること、生きること』(別ウインドウで開く)です。
「物語はたいていひとつの場面がぱっと頭に浮かんでくることから始まります。その場面に、いくつか別の場面やイメージが結びついていったとき、物語の芽がぐんぐんと育ちはじめ、あ、書ける、という感覚がやってくるのです。」と語る上橋さんの発想の原点は、幼い頃に祖母から聞いたたくさんの昔話や、読書で培った想像力のようです。また、研究者としての知識や、フィールドワークにおける現地の人々との出会いが、物語に厚みを与えているのだと感じます。「肝心なところは、できるだけ自分の経験に裏打ちされた言葉で書きたいなあ、と思っています。そうすることで物語の中に本物の風が吹く。そんな気がするからです。」
上橋さんが作家になるまでの物語を、作品とともに味わってみてください。

よむとす

「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。

飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。