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よむとす No.285 ヤングケアラー

[2022年12月1日]

ID:959

ヤングケアラー

中央図書館 唐木知子

ヤングケアラーとは、一般に「本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている18歳以下の子ども」(厚生労働省)とされています。さまざまなケースがあることに加えて、本人に自覚がない場合も多いので、全体数の把握が難しいとされていますが、令和2年に厚生労働省が行った調査では、調査に参加した中学2年生の17人に1人(5.7%)がヤングケアラーだったという報告があります。この問題を知るきっかけになればという思いから、さまざまなケースが登場する本を紹介します。

『汝、星のごとく』

『汝、星のごとく』(別ウインドウで開く)
凪良 ゆう/著 講談社 2022年8月
瀬戸内海の島に育った高校生の櫂と暁海。親が進学や進路を無条件に支えてくれる家庭環境からはほど遠い状況の中で、それぞれが自分の将来を自分で切り拓いていこうとすることから物語が始まります。二人が通っていた高校の教師が支援者として登場して、事態は好転の兆しがみえますが、進学に悩む暁海に櫂は言います。
「頼らんでええ、使ったれ。ただでさえ俺ら使えるカードが少ないんやから。持っとるもんは全部無駄にせんで活かさなあかん。」
進学を考えたとき二人が向き合うのは、自分のやりたいことや成績ではなく、親の体調や家庭の経済状態です。自分の将来を決める選択肢が極端に少ないということも、ヤングケアラーの多くのケースで見られます。進学後、20代、30代と成長していく二人が辿る道もまた、目を背けたくなるようなことの連続です。それでも幸せをあきらめない二人を描くこの物語が訴えるのは、ヤングケアラーに留まらず、現代社会が抱える問題の数々…。恋愛小説の枠を飛び出すこの一冊、昨今の社会問題を考えるきっかけになると思います。

『両手にトカレフ』

『両手にトカレフ』(別ウインドウで開く)
ブレイディみかこ/著 ポプラ社 2022年6月
ヤングケアラーという言葉は、1990年代のイギリスで使われるようになったと言われています。(『ヤングケアラーってなんだろう』澁谷智子著)この物語は、そのイギリスで暮らす14歳のミアが主人公です。シングルマザーの母は酒とドラッグの中毒で、普通の家庭生活を送ることが難しく、生活保護のお金も使ってしまいます。そのため、ミアと弟はいつも空腹で、新しい服も買えないために、いじめの対象にもなってしまいます。ヤングケアラーの問題は子どもの貧困と結びついている場合も多く、この物語でも過酷な状況が続きます。
作者が「書かないわけにはいかなかった」という子どもたち。21世紀のこの時代にこんなことがあるのか!と愕然としますが、このような状況に直面している子ども達が、今この瞬間にも私たちの周りにいることに気付かせてくれます。ヤングケアラーの子どもを支援する難しさと、寄り添う支援者が絶対に必要だということを語りかけてくれる物語です。

『みんなとおなじくできないよ 障がいのあるおとうととボクのはなし』

障がい児を兄弟姉妹に持つ子どもを一般に「きょうだい児」と呼びます。きょうだい児は、小さいころから障がいがある兄弟のために我慢を強いられたり、成長してからも兄弟のことを周囲に話せないで悩んでいたりすることがあるそうです。障がいのある兄弟の面倒を見続ける…そんなきょうだい児もまた、ヤングケアラーであり、70代、80代になっても続いていく場合もあります。
この絵本に出てくる兄からみた弟は、みんなと同じようにできないことが多く、兄は「なぜ?どうしてできないの?」と理解に苦しみます。それでも兄にとってはやっぱり大切な兄弟。兄が心の葛藤の末にたどり着く最後の言葉を読んだとき、皆さんはどうお感じになるでしょうか。私は、兄がその気持ちを持ち続けられるような社会であってほしいと願わずにはいられませんでした。

ヤングケアラーの事例はさまざまですが、自分が置かれている状況が「おかしい」「つらい」と感じる子どもが少ないのが実態です。生まれた時からつらい状況が当たり前の日常であり、支援を受けて保護され家族と離れ離れになるのを嫌がることも多いと言われています。「困っている!苦しい!助けて!」と自ら声をあげられる子どもは少なく、大人が気付いてあげることでしか、改善の糸口はつかめません。
本を通してこの問題を知ることで、自分の力だけではどうすることもできずに苦しんでいる子どもたちがいるということに目を向けてほしいと思います。そして、全ての子ども達が温かい支援を受け、希望にあふれる未来を思い描くことができる社会であってほしいと願っています。

よむとす

「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。

飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。