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よむとす No.277 読んで、味わう

[2022年8月1日]

ID:937

読んで、味わう

中央図書館 森山 ゆり

夏です!暑い日が続くと食欲も落ちがちですが、読んでいる本においしそうな食べ物が出てくるといつの間にかお腹がぐ~っと鳴ることも…。
今回はそんな“おいしそうな食べ物”が出てくる本を3冊紹介します。

『カレーの時間』

『カレーの時間』(別ウインドウで開く)

寺地 はるな/著 実業之日本社 2022年6月

貧しい幼年時代を過ごした小山田義景83歳は、現在は頑固で偏屈な性格が災いして3人の娘たちから疎まれ、一人ゴミ屋敷のような家で生活しています。その家で嫌々ながら同居することになった孫の桐矢25歳。
祖父目線の終戦後と桐矢目線の現在、二つの時代を行き来しながら展開する小説です。
「男とはこういうものだ」「女なんて…」など、決めつけている祖父と、そういう考えが苦手な桐矢。価値観の合わない二人が一緒に暮らすのは難しいもの。しかし、祖父と桐矢、二人の間に共通してあるものは「カレー」でした。祖父はレトルトカレー会社の元社員、桐矢は自分で作るカレーを祖父にふるまったりと、二人でカレーを食べている時間は和やかなひとときが流れ、少しずつ距離が縮まっていくのを感じます。
時折登場するさまざまなカレーの作り方に興味津々、味を想像しながら読み進めました。
ある日桐矢は、祖父がずっと話せずにいたあることを知ります。頑固で偏屈な祖父の、家族や仕事に対する強い思いを知って、私自身ほっとしたのと同時に歩んできた道のりの不器用さに切なくなりました。そして、思ったことをそこら辺にあるものにメモする癖のある祖父が、物語の終盤にレトルトカレーの箱に書いた一文があります。それが昔ながらの頑なな価値観が桐矢と過ごす時間の中で少し変わりつつあり、しかし祖父らしさもある言葉に感じ、なんともいえない気持ちになりました。
戦後の時代と現代と、そこに生きる人、家族それぞれに価値観がありそれぞれの物語があります。祖父と桐矢の人生が混ざり合い、お互いの価値観や思いに触れることはお互いの人生にとって意味のあることだと感じ、読み終えると「カレーの時間」というタイトルがとても深いもので、愛おしく思えます。

『泣きたい夜の甘味処』

『泣きたい夜の甘味処』 (別ウインドウで開く)

中山 有香里/著 中村 りえ/レシピ制作 KADOKAWA 2022年1月

お菓子作りが好きな友人がいます。私は全く得意ではないので、お菓子作りが好きなうえ、それがストレス発散法でもあるという友人には尊敬しかありません。その友人が作る“バナナのパウンドケーキ”が私は大好きです!きっと食べる度に何か“力”をもらっているのだと思います。
さて、次に紹介する本は熊と鮭のコンビ(なんとも癒されます)が営んでいる一軒の甘味処のお話です。このお店は夜中しか営業していません。提供するのは温かい飲み物と甘い物一品だけ。
疲れ果てたビジネスマン、会社を辞めたOL、夫を亡くした奥さん、育児に悩むお母さん、認知症の父を想う娘などなど、さまざまな事情を抱えた人がこのお店に迷い込みます。するとそこに訪れた一人ひとりの事情や悩みにとって心に沁みる言葉と共に甘い物を出してくれます。その甘い物が勇気づける答えのようになっていて、新しい何かが心の中で湧いてきてちょっと元気になれる、前向きになれる、そんな気持ちになります。
全部で11個の物語があり、どのお話にも主人公をとりまく別の人の視点で描かれたアナザーストーリーがあり、それもまたぐっと胸にくるものがあります。そして11個分の甘い物レシピも載っています。コミックですが、絵が柔らかく優しいお話に合っていて読みやすく、ちょっと心が疲れてしまった…落ち込むことがあった…そんな時にそっと寄りそってくれる本です。こんな甘味処があったらふらっと寄ってみたいなぁと思いました。

『お月さんのシャーベット』

『お月さんのシャーベット』(別ウインドウで開く)

ペク・ヒナ/作 長谷川 義史/訳 ブロンズ新社 2021年6月

暑くて寝苦しい夜、ぽたぽたと不思議な音。なんと!お月さまが溶けている音でした。慌ててたらいにお月さまのしずくを受けとめるおばあちゃん。おばあちゃんの住むアパートではどの部屋もエアコンびゅんびゅん、せんぷうきぶんぶん、れいぞうこうんうん…電気の使い過ぎでいよいよ停電になってしまいます。おばあちゃんは受けとめたお月さまのしずくでシャーベットを作ります。アパートのみんなにもわけてあげます。シャーベットを食べると不思議なことに暑いのがすーっととんでいき、みんなは冷たくてあま~い夢を見ながら眠りにつきます。
ところが…「お月さんきえてしもてすむところがなくなったん」と言ってお月さまに住む二匹のうさぎがやってきます。困っているのですが、その表情が私はかわいくてたまりません。よく見るとちゃんと杵と臼も背負って来ていることに気づき、ついププッと笑ってしまいました。うさぎたちはこのあとどうなるのでしょうか…。
この本は韓国の絵本です。絵本作家の長谷川義史さんが関西弁で訳しており、それがとてもいい味を出しています。又、絵本の中に登場するおばあちゃんとアパートの住人(?)たちや、それぞれの部屋の家具などがいろいろな素材で作られており、ついつい見とれて絵本の世界に引き込まれます。幻想的なお月さまの光やシャーベットがとても素敵なので、夏の夜にぜひ読んでほしい一冊です。
それにしても“お月さんのシャーベット”どんな味がするのかな…?


よむとす

「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。

飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。