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よむとす No.276 毎日を生きる言葉

[2022年7月15日]

ID:934

毎日を生きる言葉

中央図書館 田中 瑞絵

 

毎日使う言葉。言葉はいつも私たちのそばにあって、時に心を癒し、励まし、力を与えてくれます。ずっとずっと昔から、昨日も、今日も、そして明日も…。そんな言葉に関する本を紹介します。


『毎日の言葉 読んでおきたい日本の名作』

日本の民俗学の父と呼ばれる柳田国男。兵庫県生まれの国男(旧姓松岡)は元飯田藩士の柳田家の養子となり柳田姓となりました。柳田国男の書屋は飯田市美術博物館に移設されており、飯田にとって大変縁の深い人物です。
柳田国男は多くの著作を残しましたが、この『毎日の言葉』は若い女性たちに向けて書かれたもので、毎日使っている言葉の由来や意味などについて、若い人にもわかるように書かれています。
「ありがとう」という言葉は、元々人と人との間のお礼の言葉ではなかったとか、本来は低い身分の者が目上の者に向かって用いていたものが、後に上の者から下の者へ用いるようになった言葉など、普段使っている言葉が時代を経て大きく変化している事に驚かされます。
柳田自身、この本の中で「言葉は時世につれていくらでも変わっていくもの」と言っています。日々変化を続けている今日の「毎日の言葉」を柳田国男がどう感じるのか、確かめる術はありませんが、聞いてみたいものだなあと思います。

『なくなりそうな世界のことば』

『なくなりそうな世界のことば』(別ウインドウで開く)

吉岡 乾/著 西 淑/イラスト 創元社 2017年8月

世界にはおよそ7,000もの言葉があるそうです。多くの人の間で使える「大きな」ことばと、少しの人の間でしか使えない「小さな」ことば。この本では、世界の50の少数言語の中から「小さな」ことばの専門家たちが思い思いの視点で選んだ「そのことばらしい」言葉を集め、文と絵を添えて紹介しています。
ひとつひとつ「小さな」ことばを読んでいくと、その裏に人々の生活や文化、歴史を感じます。その文化や歴史だからこそ生まれてきた言葉が消えてゆくということは、一つの歴史が終わっていくようで、なんだか切ない気持ちになります。
日本からはアイヌ語が紹介されています。現在、アイヌ語を継承している人の数は極めて少なく、流暢に話すことのできる話者は、わずか5人ほどだといわれています。まさに「なくなりそうな言葉」です。本当になくなってしまう日が来ないことを願います。

『思いはいのり、言葉はつばさ』

『思いはいのり、言葉はつばさ』(別ウインドウで開く)

まはら 三桃/著 まめふく/装画 アリス館 2019年7月

中国の小さな村に住む少女チャオミンは、「これはね、女性だけが書く文字なんだ。」と友人が見せてくれた美しい文字「女書(ニュウシュ)」に魅せられ、夢中になります。自分の思いをこの美しい文字に乗せて、もっときちんと伝えられるようになりたいと「女書」の練習に励みます。
「女書」とは中国に伝わる女性だけが使う文字で、女性が文字を学ぶことを良しとされていなかった時代に生み出され、伝承されてきた実在の文字です。この物語はその「女書」をモチーフに書かれています。「女書」は手紙などに使われたほか、「三朝書」とよばれる結婚する女性への贈り物に使われていました。姉妹、友人、母親などから新婦の幸せを願う想いや、村を離れて行く悲しみや寂しさを詩にして綴ったもので、結婚して三日目の女性の元に届けられる習わしだったそうです。結婚相手の顔も知らず、たった一人で見知らぬ土地へ嫁いでゆく事が当たり前だった彼女たちにとって、何よりも大切な贈り物であったと思います。
チャオミンも「女書」を習いに行った先で出会い仲良くなったシューインに「三朝書」を書く時がやってきます。思いのこもった言葉はまっすぐに胸に届き、頼りなく消えてしまいそうだったシューインの心に力を与えます。言葉の持つ力というものを感じる一冊です。


よむとす

「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。

飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。