中央図書館 矢澤 恵
私が図書館で働きたいと思ったのは「本が好き」という気持ちが動機です。果てしなく広がる「本」の世界の楽しみを、もっともっと知ってもらいたいと思って仕事をしています。
今回紹介するのは、それぞれ自分の「好き」をとことん突き詰めた人の本です。自分の「好きなこと」をそれぞれ熱く発信しています。いろんな生き方があるものだと、感心したり、驚いたり。
そして中高生のみなさんに、将来や進学を考える時、自分の「好き」や「楽しい」から考えてみようよ、と伝えたい本たちです。
川田 伸一郎/著 ブックマン社 2020年10月
作者は国立科学博物館の哺乳類の担当者で、モグラの研究者です。この本は雑誌に掲載されたものをまとめたもので、ユーモアのある笑い満載の楽しいエッセイ集です。タイトルに「バカ」という言葉が付いていますが、とにかく標本愛がみっちり。まさに「好きを極めた」仕事ぶりが伝わってきます。
川田さんは仕事の9割を標本作りに充て、手に入った動物の死体を無目的無制限無計画に手あたり次第、標本にしています。はく製や骨格標本、ホルマリン漬け。ネズミやモグラから、ゾウやキリン。標本って縁遠い世界ですが、作製の手順や苦労がわかって面白い。重労働だとか、臭いとか大変そうだけど、でも本当に楽しそうなのは、作者の「愛」ゆえでしょう。
でも、なぜこんなに標本を作りまくるのか。それをこの本では博物館の存在意義として伝えています。私たちは展示に目がいきがちですが、収集し、整理し、保存することの意味として、著者は「博物館は未来のためにある」「研究者の支援のためにある」と言います。現在だけではなく、未来の研究者のためにもきちんと保存しておくことの大切さ。(これは図書館も同じです。)
博物館の見方も変わる本です。
松原 始/著 旅するミシン店 2016年8月
動物行動学者でカラスの研究者である作者は、ユーモア溢れる文章のカラスの本を多数出版しています。もちろんカラス愛にあふれていて、「カラスって悪いイメージがあるけど、こんなに面白いんだよ」と伝えてくれます。
その中でこの本は、京都での大学生生活と、カラスの研究を始めた頃の様子が綴られています。
入学して始まる学生生活のあれこれ。カラスの研究を始めたきっかけや、日課になったカラスの観察の様子と顔なじみになったカラスたちについて。遠方へ出かけてのフィールドワークの様子など。
少し前の1990年代ではありますが、大学で好きなことを学ぶってこういうことなんだと教えてくれる本でもあります。
森 博嗣/著 講談社 2008年7月
3冊目は「好き」を趣味として極めた人の紹介です。
森博嗣氏は、累計の発行部数が1600万部を超えるベストセラー作家ですが、小説を書いた理由は「趣味に使うお金が欲しかったため」とのことです。
森氏の趣味は書名にあるように「庭園鉄道」。実際に走っている鉄道ではなくて、自宅の庭にミニスケールの線路を敷き、ミニチュアの電車を走らせるというもの。(よくイベントで見かける上に人が乗れるサイズのもの。)自分の好きなように自由に楽しめるのが魅力とのことです。
でもそれには土地がいるし資金がいる。本職の仕事の後の夜の時間でできる副業として小説を書き始めたというから驚きです。そして「もう十分稼げた」と思った47歳で仕事を退職し、作家業も量をセーブするようになります。
その前後の自宅庭の「庭園鉄道」について日記風に綴っているのが本書です。機関車も線路も周りの風景も好きなように手作り。工作や工事に励む日々が綴られます。専門用語はわからなくても「楽しい」気持ちがあふれていて、伝わってきます。
森氏はあとがきで「(最初は)夢のまた夢」だったと書いています。でも「どんなものも、まったく期待をしていなければ、実現することはありません」「考えて考えて考えて、頭をそれで満たしていれば、いつかきっと実現するでしょう」と。
スケールがケタ違いで、こんな風に実現できたらうらやましいと思うとともに、特に若い人にこんな生き方もあると知ってほしい本です。
「よむとす」とは“読む“と“~せむとす”(ムトス)を合わせた造語です。
飯田市におけるムトスの精神を生かし、読むことにかかわる活動の推進と支援を目的とした読書活動推進の合言葉です。